条件節「ば」の用法と文末制限について

こんにちは。昼ゼミ2年の早川です。提出期限ギリギリになってしまい、申し訳ございません。最近寒いですね。そして私の部屋も非常に寒いです。私の部屋にある暖房器具はハロゲンヒーターのみ。ハロゲンヒーターは真正面の光が当たっている部分しか暖めてはくれないのです。キーボードを叩く手もかじかみます。パソコンとチョコだけが私の友達です。

さて、今回私は以下の論文を紹介させて頂きます。

谷口真樹子(2009)「条件節「ば」の用法と文末制限について」、『言語文化教育研究』(4), pp.24-28

「ば」と「と」と「たら」は以下例(1)のように互いに置き換えられる場合と、(2)(3)のように互いに置き換えられない場合がある。

(1)a まっすぐ行くと、スーパーがあります。
b まっすぐ行けば、スーパーがあります。
c まっすぐ行ったら、スーパーがあります。
(2)a*人数が多いと、帰ったほうがいい。
b 人数が多ければ、帰ったほうがいい。
c 人数が多かったら、帰ったほうがいい。
(3)a*電車に乗ると、座ってください。
b*電車に乗れば、座ってください。
c 電車に乗ったら、座ってください。

これらの3形式を区別するための手段の一つとして「文末制限」の違いがあるが、(1)~(3)の例からわかるように、「たら」は文末制限が無く、「と」は後件に主観的表現が許されないことに対し、「ば」は文末制限が明確でない。
本論では、「ば」の個別の機能と特徴を明らかにし、どのような場合に文末制限がかかるのか、また、何故その場合に制限がかかるのかを考察している。また、その結果を基に日本語教育における条件節「ば」の指導案を示しているのだが、今回は考察の部分のみに焦点を当てる。

先行研究で明らかになった「ば」の用法は、大きく分けると「一般条件」と「仮定条件」の二つに分けられる。鈴木(1978:211)によると、「一般条件」は「前件が成立すれば、必ず後件が習慣的・反復的・自然発生的に後件が生じる」ことを述べるものであるとしている。また「仮定条件」についてグループジャマシイ(1998:478)は「特定の事物・人物について『Xが成り立てばYが成り立つ』という関係を表す」としている。また、この二つの用法のうち「一般条件」が基本的用法であることも明らかになった。次に、文末制限においては、グループジャマシイ(1998:480)は「前件が動作動詞で、後件に『意志・命令・禁止・依頼』などのムードが来る場合は、制限がかかる」ことを明らかにしている。しかし、これらの先行研究では「一般条件」と「仮定条件」の区別が「一般的」であるか、または「特定の事物」であるか無いかに留まり、線引きが難しい例文も出てくる。また、文末制限についての条件は明らかとなったが、何故文末制限が起こるのかという疑問については未だ明らかとなっていない。そこで谷口は、これらの疑問を解明するため、分析・考察を行った。

「一般条件」と「仮定条件」の相違点を分析するにあたり、谷口は森田(1967:33)が述べている「結果の句には話し手の主観や恣意性が許されない」と、グループジャマシイ(1998:33)が述べている「『仮定条件』には、文末には「だろう」「はずだ」または「思う」などの表現を伴うことが多い」という二つの見解に着目した。そこで「一般条件」と「仮定条件」の違いは、後件が客観的に述べられているか、主観的に述べられているかによるものと仮定し、分析し検証を行った。検証の結果、「一般条件」は、後件が客観的に述べられており、話し手がコントロールできないという特性を持っていることが分かった。一方「仮定条件」は、後件が主観的に述べられており、話し手のコントロールが及ぶものであることが明らかとなった。以上の分類を踏まえた上で、「文末制限」の観点から見ると、後件が主観的に述べられている「仮定条件」の中で制限が起こっていることは明らかである。しかし、その制限がかかる要素は、命令や依頼などの主観的表現の一部であることや、制限がかかる要素については分からない。そこで、谷口は「ば」の用法の新たな分類を試み、制限が起こる要因について分析した。

谷口は「ば」の文末制限はムード(話し手の判断や心的態度)に関係していることから、富田(2007)によるモダリティの体系に従い分類することが有効ではないかと考え、「ば」を新たに分類し、分析、検証を行った。谷口は「ば」の用法を「話し手の認識・判断」と「話し手の行為実行」に分類し、分析した結果、まず「話し手の態度・判断」は、「前件が成立すれば、必ず後件が生じる」と話し手が客観的事実として認識しているものと、それを基本として、主観的判断・評価が加えられたものがあると結論付けた。次に、「話し手の行為実行」については、多くの場合非文となる。その理由として、「ば」は「時制辞を持たないため、前件が表す事態の実現を前提としない」という井上(2007:46)の見解より、「ば」は「前件が表す事態は未確定/未完了を意味する」という考えを導き出した。したがって、前件の行為が完了を意味しなければ述べることのできない「話し手の行為実行」は後件にくることはできないことが分かった。しかし、先行研究であげられていた「状態性述語」は、「行為の完了」とは無関係であるため、後件に「話し手の行為実行」を表すことができると考えられる。このように、後件に「話し手の行為実行」が来る場合は、多くの場合非文となり、限られた前件の条件でしか述べることができないため、「ば」の基本的用法であるとは考えにくい。したがって、谷口は「ば」の用法はあくまでも「話し手の認識・判断」を基本としており、「話し手の行為実行」は二次的用法であると結論付けた。
以上の分析結果から、モダリティによる「ば」の用法の分類、文末制限は次のようにまとめられるとしている。

a.「ば」の本来の用法は、「話し手の認識・判断」を表すものである。
b.二次的用法として、前件が「行為が未確定・未完了」の場合は、後件の選択の一つとして「話し手の行為実行」について表すことができる。
c.bの特徴から外れる「話し手の行為実行」は、非文となる。

以上で要約を終了します。
条件節について研究をしていく上では文末制限の違いに目を向けるということを今回の論文から知ることができました。また、前回の課題の際には条件節全体に目を向けて研究を行いましたが、今回のこの論文を読んで、条件節の中でも特に「ば」について興味を引かれました。これから更に研究を進めていき、「ば」をはじめとした条件節についての考察を深めていきたいと思います。