機能動詞結合

こんにちは。昼ゼミ三年の内田です。最近常にマスクをしているような気がします。マスクをしていれば、顔が温かいですからね。

ところで今日は以下の論文を紹介したいと思います。

神田靖子「機能動詞結合とその他動性をめぐる覚書」『同志社大学留学生別科紀要第2号』pp.55~73 同志社大学

この論文は村木(1985,1991)を基に「機能動詞結合」の持つ意味特性について観察している。

まず「機能動詞結合」とは「考慮/努力 をはらう」「拍手/合図 をおくる」「注目/支持 をあつめる」のような「機能動詞を含む語結合」であると神田は述べている。機能動詞とは「本来の実質的な意味を失い、実質的意味を名詞にあずけて、みずからはもっぱら文法的な機能をはたす動詞」(村木1985)である。村木(1985)は機能動詞結合における動詞について「動作の主たる意味は名詞のほうにあって、動詞の動作的意味はそえもので二次的」であると述べているが、神田はこれについて、機能動詞結合における動詞の働きは「そえもの」以上であると指摘している。そこで神田は、機能動詞結合を用いる理由を次の四点として考えている。

①    機能動詞結合は単純動詞では表しえない「動作の方向・ありか・様相」を表す。

②    機能動詞結合は単純動詞のみでは表しえない「動作主体の数」を表す。

③    機能動詞結合は相応の形容詞や副詞などの装飾後を用いることなく「動作の行われる様相、程度」などの微細な意味をその動詞の意味特徴によって表現する。

④    構成動詞によっては、前項にとる名詞が一定の傾きを持つものに限定される場合があり、同じ傾向を持つ新たな語結合を作り出す可能性もある。

神田は上に挙げた四点について次のように説明している。まず①の場合の例として「影響を与える/及ぼす/受ける」がある。これは「影響する」と比較すれば「影響」が「だれ・どこに、どのように」及んでいくのかを述べるためであり、能動・受動態といったヴォイス上の差異をも表す。また、「与える」と「及ぼす」との相違からうかがえるように主体の意図性の程度にも違いがある。②の例として「絶賛を博す」がある。この場合、それの表す動作は単純動詞の受身形「絶賛される」と同じ意味ではあるが「誰」から絶賛されるかという「能動主体」は一人ではない。すなわち「多くの人々から絶賛される」と書き換えられる。そして③の例には「判断を下す」がある。この場合「判断する」と比べて「決然たる行為の遂行」という含意がある。そして最後④の例として②と同じく「絶賛を博す」がある。この場合構成動詞の前にくる名詞は「好評/人気」のように肯定的評価を持つものに限られる。

このように機能動詞結合は構成動詞の持つ意味によって単純動詞が表しえない微妙なニュアンスを生みだす要因となっていることがわかり、機能動詞結合における動詞は「そえもの」ではなく名詞と同等の重要性を持つということがわかると神田は主張している。

動詞「する」と機能動詞の関係について考えるために、今回は「機能動詞結合」について調べてみました。「する」は機能動詞としての働きを強く示していると考えていますが、今回の論文では「する」は機能動詞でありながらも機能動詞結合において「そえもの」になってしまっているのではないかと感じました。それほど「する」の機能動詞としての働きの強さも感じましたが、「する」においてもその動詞が名詞と同等の重要性を持つ場合があるのか疑問に思いました。今後は以前の課題で気になった「実質動詞の代替」としての「やる」と共に「する」においても「前発言の代替」が可能であるのかを調べていきたいと思います。

【参考文献】

神田靖子(2002)「機能動詞結合とその他動性をめぐる覚書」『同志社大学留学生別科紀要第2号』pp.55~73 同志社大学

村木新次郎(1985)「慣用句・機能動詞結合・自由な語結合」(『日本語学』4巻1号 明治書院)

村木新次郎(1991)『日本語動詞の諸相』ひつじ書房