接尾辞「-ぽい」について

 こんばんは。昼ゼミ2年の竹内郁美です。最近は関東でも雪が降り、本当に寒い日が続いていますね。私は今、自宅のパソコン部屋でこのレポートを書いているのですが、なんとこの部屋、暖房がないのです…。手が凍ってしまいそうですが、このレポートを無事提出できれば温かい湯船が私を待っているので、頑張りたいと思います。

 さて、私は昨年の個人発表で、音象徴に関する論文を扱いました。しかし、卒論に向け具体的な表現に絞り込むとなると、音象徴よりも、グループ発表で扱った接尾辞を研究したいと思い、今回、以下の論文を選びました。

小原真子(2010) 「接尾辞『-ぽい』について」/『島根大学法文学部紀要言語文化学科編』 29, 59-76, 2010-10-30

では早速、要約に入らせて頂きます。

小原は、接尾辞「-ぽい」(「-っぽい」)について、従来の用法と新用法の違いを語彙レベルと句レベルの違いとして捉えることができると指摘してる。

1.辞書による定義

接尾辞「-っぽい」の従来の用法は、辞書で以下のように定義されている。

● っぽ・い〔接尾〕《形容詞型活用》
名詞や動詞の連用形などに付く。
①…を多く含んでいるという意を表す。「粉―・い」
②…傾向が強いという意を表す。「俗―・い」「飽き―・い」「荒―・い」
                               (『大辞泉』より)

しかし、『明鏡国語辞典』の【語法】欄に新規用法に関する言及が見られる。

◆【語法】近年、「出かけるっぽい」「行くっぽい」など、動詞の終止形に下接する例が見える。意味は様態の「らしい」に近い。
2.接尾辞「ぽい」の新規用法とその特徴

1で見たように、「ぽい」は従来、「何かが多い様子」や「何かをしがちな様子」を表す接辞だったのに対し、新規用法では、推量や婉曲な断定の意味を帯びてきた。

さらに小原は、語の形態的緊密性の観点から、「ぽい」の付加する語について具体例を挙げながら述べている。

※語の形態的緊密性(影山1999)
・・・単語は全体で1つの塊であり、その内部を統語的な要素で分断することは許されないという性質

(1)a.兄は[大人っぽい]が、弟は[子供っぽい]。
   b.*兄は[大人_]、弟は[子供っぽい]。

(2)a.兄は[実の子供]っぽいが、弟は[他人の子供]っぽい。
   b.兄は[実の_]、弟は[他人の子供]っぽい。

(3)a.今日の午前中は[雨が降る]っぽいが、午後から[雪が降る]っぽい。
   b.今日の午前中は[雨_]、午後から[雪が降る]っぽい。
形式面から見ると、従来は普通名詞に付加していたが、新たに名詞句に付加するようになった。また、従来の用法の「ぽい」は(1)のように等位構造での削除が出来ないが、新規用法の「ぽい」は(2)のように名詞に付加している場合でも、(3)のように動詞に付加している場合でも削除が可能である。

3.「現代日本語書き言葉均衡コーパス」に見られる接尾辞「ぽい」

小原は、2009年度版の「現代日本語書き言葉均衡コーパス」を使用し、接尾辞「ぽい」に加え、「ぽかっ(た)」、「ぽく(て)」、「ぽさ」、「ぽすぎ(る)」などの活用も含み、1955例を抽出した。

結果は次の通り。
 ・「白書」(1976年~2005年の政府系刊行書物)・・・2例
 ・「国会議事録」(1976年~2005年)・・・16例。
 ・「書籍」・・・1289例
 ・「Yahoo!知恵袋」(2004年10月~2005年10月)・・・648例

→ 「白書」や「国会議事録」に例がほとんど見られないのは、「ぽい」が口語的なため、公的な文書にはふさわしくない表現であることが影響している。
  また、「書籍」では、そのデータ数の多さも相まって、「ぽい」の付加した語の使用例は多いが、従来の用法がほとんどで、動詞の終止形に付加したものはほとんど見られなかった。
  一方、「Yahoo!知恵袋」では、新規用法の「ぽい」の使用が多く見られた。これは、新規用法が口語を中心に広がりを見せていることを示している。

 この論文は形式面からの分析が中心だったので、今後は接尾辞「ぽい」を意味の面から考察している論文も集め、研究を進めていきたいと思います。また、「ぽい」の新規用法は、「らしい」や「みたい」と言い換えが出来ると思うので、これらについて書かれた論文も探し、比較することで、 「ぽい」の特質を探っていきたいです。