前置き表現における会話文と投書の比較

こんにちは。夜ゼミ3年の山田康太です。就活も忙しくなりました。食品業界のセミナーに行き、いろんな食べものをもらって帰ってきてはそれを楽しみにしています。さて今回は研究テーマの前置き表現「なんか」自体ではなく、前置き表現そのものをもう少し掘り下げてみたいと思います。

陳 臻渝(2007)「日本語の前置き表現に関する一考察 : 会話文と投書の比較を通して」

『大阪府立大学人間社会学研究集録』 2, 67-80, 2006

1. 論文の概要と意図(私自身の)

この論文では、特定の聞き手を相手とする会話文(この論文ではシナリオからの用例)と不特定多数の聞き手である新聞の投書、それぞれの前置き表現を比較しています。この論文では、過去に類似の先行研究がないという理由から、先行研究との比較はほとんどなされていません。私がこの論文を選んだ意図としては、前置き表現「なんか」の研究で口語と文語における違いについて悩まされたためです。

2. 前置き表現の定義

前置き表現の研究に関して、必ずといって言いほど問題になるのが前置き表現の定義です。この論文では、過去に筆者が論じた論文から定義を引っ張ってきています。

1. 前置き表現は何らかの配慮によって用いられ、主要な言語内容に先立つ

2. 注釈的な機能を持っているので、ディスコースにおいてはそれより、その次に来る主要な言語内容を導入する機能のほうが大きい

3. 前置き表現には、話し手の、次に来る主要な言語内容に対する判断(態度)や認識が含まれている。

4. 前置き表現の有無によって、次に来る主要な言語内容の命題・事柄の成り立ちに支障が起きることはない。

3.本論文での前置き表現の分類

陳(2007)は、上記の定義に基づいて前置き表現を「対人配慮型」と「伝達性配慮型」に分類しています。「対人配慮型」とは、発信者が人間関係に対する配慮を考えて発するストラデジーのようなものです。対人配慮型の特徴として、この前置き表現を外すことによって、伝達内容や本旨にはなんら影響はないが、人間関係やコミュニケーションがスムーズでなくなるといって特徴があります。一方、「伝達性配慮型」とは、伝達の効率性に配慮した、前置き表現です。

さらに、陳(2007)では、「対人配慮型」の中に

①    侘び表明(侘び表現を用いて、対人関係に配慮するもの)

②    理解表明(受信者に共感や同意をすることによって対人関係に配慮するもの)

③    謙遜表明(発信者が謙遜表現を使うことによって、配慮すること)

④    釈明提示(発信者が自分の言動について釈明することで対人関係に配慮すること)

があり、「伝達性配慮型」の中に

①    話題提示(伝達話題を予め提示し、次の発話内容をより明確にするもの)

②    様態提示(発信者がどのような様態で発信するか分かりやすくするもの)

があります。

3. 分析結果

「91年、92年年鑑代表シナリオ集会話部分」

「朝日新聞記事2000データベース1~6月」

会話文 投書
使用数 23 0
割合 21% 0

*対人配慮型

会話文 投書
侘び表明 使用数 23 0
割合 21% 0
理解表明 使用数 14 10
割合 13% 9%
謙遜表明 使用数 20 17
割合 18% 16%
釈明提示 使用数 8 0
割合 7% 0

*伝達性配慮型

会話文 投書
話題提示 使用数 17 37
割合 15% 34%
様態提示 使用数 30 44
割合 27% 41%

4.考察

上記の結果から考察すると、会話文においては、前置き表現が差はあるものの全般に使用され散ることがわかります。一方、投書の方の結果を見ると、「侘び表明」と「釈明提示」には使用例がありません。理由としては、会話文と投書の性質として、投書には複雑な人間関係という要素がないため、受信者に負担をかけるような言語行動が存在しないと考えられます。また、「侘び表明」と「釈明提示」には、受信者を特定する性質があるため、投書のような不特定多数の受信者相手には成立しません。

もう一つ、「侘び表明、理解表明、謙遜表明、釈明提示」においては、会話文>投書であったが、「話題提示、様態提示」に関しては会話文<投書でした。このことから対人配慮型では主に会話文のように特定受信者を意識したものが、伝達性配慮型では主に投書のような不特定受信者を意識したものが多いという結果になりました。

4. おわりに

長々と申し訳ありません。今回の論文の要約をやってみて、会話文中での使用例が多いと思われる「なんか」がこれらの分類にあてはまるのか疑問に思いました。「なんか」の先行研究は数が少ないので、関連する項目の先行研究を調べることで、どうにかこうにか卒論に漕ぎ着けられればと思います。