新聞記事の発話行為からみたジェンダー

 こんばんは。昼ゼミ2年の宮澤です。初投稿です!不備があったらすみません。

 先日、大学の図書館に行ってきました。霊感のある友人から地下の書庫には何かがいると聞いていたため、ビクビクしながら読み漁っていました。特に地下4階の椅子には見えない誰かがいるそうです。みなさん、お気を付けください......少しは涼しくなりましたか?

 そのとき借りてきた雑誌に掲載されていた

 遠藤織枝(2004)「新聞記事の発話行為からみたジェンダー」『日本語学』第23巻、pp.38-47(明治書院)

を要約しました。

 筆者は、「女性語」「男性語」や女性差別的語のような特定の語・表現以外の言葉にもジェンダー(社会的性差)が表れると指摘しています。「ジェンダーによる力の差=語の使用の差」であると主張し、そのことを確かめるために、この論文では、新聞記事(CD-ROM版『毎日新聞』(1993~2001年))から、「発話行為そのものを示す語」を収集して、それらの語がどのような人物によって使われるのか、そこに性差があるのかを考察しています。性別が判明している場合は「男」と「女」に、判明していない場合は「不明」に、政府や企業などは「組織」に、複数の話者は「複数」に分類してあります。

(注意点)遠藤(1992)によると、最も女性の登場が多い新聞の場合で、女性の対男性比は25%だったそうです。このように、新聞ではそもそも発話行為の主体は男性中心であるため、単純に比較するのは難しいです。

「発話行為そのものを示す語」の発話者 出現数と割合

  ①明言 ②断言 ③主張 ④強調
主体 出現数 対全体比(%) 出現数 対全体比(%) 出現数 対全体比(%) 出現数 対全体比(%)
男性 115 78.8(97.5) 107 79.3(97.3) 66 41.0(88.0) 108 81.8(97.3)
女性 3 2.1(2.5) 3 2.2(2.7) 9 5.6(12.0) 3 2.3(2.7)
組織 18 12.3 19 14.1 71 44.1 14 10.6
複数 1 0.7 4 3.0 10 6.2 0 0
不明 9 6.2 2 1.5 5 3.1 7 5.3

※赤字は最も割合が大きい主体

①明言(する)

  (1)池田行彦外相は9日開かれた政府・与党の財政構造改革会議の企画委員会で[…]「達成はいくら頑張っても無理なのは明らか」と明言した。(1997.4.10)

発話者の特徴:男性が圧倒的に多い。(例)池田行彦外相、橋本竜太郎首相、大和銀行頭取

[他項目の例 女性(例)ヒラリー夫人、オルブライト国務長官 組織(例)政府、大蔵省]

⇒(考察)発話者の特徴として、権限や権力がある個人あるいは強大な力を持つ存在である点が挙げられる。その中でも、男性が多いという特徴は、そのような力を持つ人物や力のある場所に男性が多いことが関係しているのではないか。つまり、「明言」するという行為は、「明言」するべき事実や情報を持つ力のある主体の行為だと考察している。

②断言(する)

  (6)小説月刊誌「小説すばる」(集英社)の山本源一郎編集長は「すべての新進作家と編集者の合言葉は『いつかは直木賞を取ろう』といってもいい」と断言する。(2001.1.11)

発話者の特徴:「~さん」「~氏」などの個人名が多い。(「明言」には1例もなし)

[他項目の例 女性(例)オルブライト米国務長官、ハリーナさん]

⇒(考察)発話者は、「明言」と同じように、権限を持つ者である。しかし、「明言」とは異なり、個人名が多いことから、公的な権限だけでなく、個人的な内容において発言する権限がある場合も使用することができると考察した。(例えば、姉が弟の話をするのは、姉には家族として弟の話をする権限があり、「断言する」を使用できる。)

①、②の考察から、「明言」と「断言」がどのような人物による行為であるかが分かる。

・「明言」:公的権力や権威を持つ立場の話者の行為

・「断言」:個人名で登場する人物の行為

③主張(する)

  (8)昨年のデモについて軍事政権は「民主連盟のメンバーが関与している」と主張、これまでに13人の民主連盟メンバーを含む計47人を逮捕。(1997.1.19)

発話者の特徴:組織(企業、官庁や国家、~側)が多い。(例)全日空、大蔵省、県側

       ①、②、④に比べて女性が多い。(例)女性、~さん

⇒(考察)個人よりも組織の方が、権利を主張し、「自分の意見を言い張る」ことが多いため、発話者は組織が多いのではないかと考察している。

④強調(する)

  (10)自民党の山崎拓前政調会長は28日、佐賀市のホテルで講演し、総裁選について「総選挙で勝敗のカギを握る無党派層を取り込むため、政策ビジョンを示す必要があり、その場が総裁選だ」と強調した。(1999.8.29)

発話者の特徴:男性が圧倒的に多い。(例)首相、~氏、会長

⇒(考察)「強調」は、「強く主張する」という意味である。「主張」のときは、女性が多かったが、「強く」という意味が加わるだけで、女性の割合が低くなる。これは性差の表れではないかと考察している。

 ①から④をふまえて、新聞における発話主体の多くは、最高の地位にいて大きな権限を持つ人物や国民の生活を支配する権限を持つ国や官庁であると分かり、男性が多い点は、そのような場には女性よりも男性が多いからではないかと推測しています。このことから、筆者は、ジェンダーとは無関係に思える語も、ジェンダーに影響されていると考えています。

 この論文で興味深いのは、性別関係なく使用できるはずの語を使用する際に、無意識のうちに性別の差が出ているのではないかという視点です。言葉には想像以上に性差が表れていることが分かりました。この論文を読んで、「若者言葉」も「若者」と一括りにしていますが、男女で差が見られるのではないかと気づかされ、卒業論文のテーマの候補の一つにしたいと思いました。

 新聞は、筆者も述べているように、男女が同じ割合で取り上げられているとは言えない点に加え、男女に限らず取り上げられる人物の系統にも偏りがあると考えられます。更に、現在は、1990年代から2000年代よりも、ジェンダーについて意識が変わっている点とインターネットが普及した点から、現在の状況、そしてTwitterやブログなどのインターネット上での状況を調べる必要があると感じました。

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