「ちょっと」の意味解釈と音声的特徴

こんにちは、昼ゼミ2年の河野です。

先日友人と大阪へ行く機会があり、車を運転していったのですが、行きは高速道路を使いました。しかし全員行った先のアメリカ村(古着屋街)で散財し、12時間かけ下道帰宅の羽目になってしまいました。(誰も高速代が払えない!)

計画的にお金を使うことの大切さを痛いほど知りました。

今回は以下の論文を要約しました。

呂 妍(2018)「程度副詞の意味解釈に関する音声的特徴について -『ちょっと』を中心に-」『早稲田日本語研究』27号,1-12 『早稲田大学日本語研究会』

【本論文の概略】

 筆者は程度副詞「ちょっと」が、後ろにつく形容詞に対し必ずしも低い程度であるさまを表わすというわけではないことについて、語用論的要因の他に音声的要因が関わっていると考察している。本論文では「ちょっと+形容詞」をめぐり、聴取アンケート調査に基づき程度の意味解釈と音声的要因の関係について論じている。先行研究として、岡本・斉藤(2004)は、「ちょっと」のプロミネンスについて触れている。しかし筆者の管見の限りでは「ちょっと」のピッチや持続時間についての研究は見当たらないため、音声的要因という新たな視点からの研究を開拓するという目的で本論文は執筆に至っている。本論文で論じられる分析のポイントは以下の通りである。

(1)「ピッチ」の観点からの音声的要因

 アクセントの位置別の程度の意味解釈

(2)「持続時間」の観点からの音声的要因

 「ちょっと」とそのあとに続く形容詞の間の「間」の長さ別の程度の意味解釈

【詳細】

(1)「ピッチ」の観点からの音声的要因

 ちょっとおいしいですよ。

聴取アンケートでは上記の例文について3通りの異なるピッチで「ちょっと」が発音された。被験者はそれぞれのピッチにおいて、「おいしい」の程度が「少しだけ」、「最も」、「とても」のどれが最適かつ自然かを選択した。その結果、「ちょっと」が平らかつ低音で発音され、「おいしい」が高く発音された場合、53パーセントの被験者が「とても」、52パーセントが「最も」を選択し、他2通りのピッチに比べ「最も」、「とても」を選択した被験者の割合が圧倒的であった。このような結果から、筆者は「ちょっと」を平たく低く発音し、後ろに続く形容詞を高く発音されることが、「ちょっと」の程度が高く解釈されることの引き金になっていると分析した。

(2)「持続時間」の観点からの音声的要因

わぁ、ちょっと辛いなあ。

 ここでの聴取アンケートについては上記の例文が使用され、「ちょっと」と「辛い」の「間」を短いものから長いものまで3通り発音された。被験者はそれぞれが「最も辛くない」、「最も辛い」、「とても辛い」のうちどれに当てはまるかを選択した。その結果、「間」が最も長く設けられた発音が、「最も辛い」が54パーセント、「とても辛い」が42パーセントと、他2つに比べ圧倒的であった。このことから筆者は、「ちょっと」と形容詞の間の無音期間が延長される時、「ちょっと」が普通以上の程度を表すと分析した。

【結論】

程度副詞「ちょっと」の意味解釈において、ピッチと持続時間が大きく影響していることを結論としている。また、ピッチの実験の結果である「ちょっと」を平たく低く発音し、後ろに続く形容詞を高く発音されることが程度が高く解釈される要因となるとの主張には、自分の見解を相手に押し付けないという感情を音声にして示唆するからであろうとの考察を付加している。

本論文は私が春学期の論文レビュー発表の際に取り上げた呂妍さんの論文の、先行研究にあたる論文です。とにかく端的にまとめることが非常に難しい論文でしたが、分析されている観点などを私なりに「人に紹介するもの」に仕上げられたように思います。