こんにちは、夜ゼミ3年の秋山です。慣れというのはすごいものです。例えば、地方巡りなら丸半日電車に乗っていても精神的苦痛をそれほど感じなくなってしまいました。このままでは常人離れしてしまうので、旅の他に何か良い趣味を探そうかと考えています。
さて、本題に入ります。私は「~てください」という表現における、意味用法の判断基準が何なのかを解明すべく、研究を進めてまいりました。主な用法は「命令・指示」「依頼」「勧め」の三つとされています。このとき、当該表現は直接的(一方的)であるにも関わらず、相手に配慮を要する「依頼」の意が成立することになります。これがなぜなのかについて、ポライトネス理論と関連付けて述べた関根和枝(2007)「「~てください」の機能を決めるもの―指示と依頼の間」『言語文化教育研究』2、pp.98-110を、今回は要約しました。
関根はまず、初級の日本語教育で「~てください」が単に依頼表現の一つとして指導されることへの問題点を指摘した。場合によっては失礼に値することがあるからである。またポライトネスの観点から、依頼とは相手を動かして話者が利益を得るため、その表現方法は間接的(「~てくださいますか」等)になるのが好ましい、という。よって、相手の意志を伺う言い方にはなっていない「~てください」が依頼として用いられるのは、通常なら不自然になるはずだ、とした。
これらを踏まえて関根は、この表現が依頼として成立するための条件がいくつか存在する、と述べている。それらを以下に列挙する。まず第一に、相手が原因で生じた話者の不利益を改善する依頼として使用する場合。この場合、要求すること自体に当然性があり、相手も関係回復を図ろうとするため、話し手からの特別な配慮は不要になる、とした。二つ目は、相手の力への称賛を示し、その意図を当該表現に込めた場合。これは相手のいい面を取り上げて尊重するという、ポジティブ・ポライトネス運用に適ったものであるという。さらに、これに関しては直接性がその効果を増している、と付け加えた。この他にも、依頼をした後の相手への返礼が暗示されている場合や、相手に敢えて負担を要求することにより、互いの距離を縮めようとする場合(新人と先輩などの間柄において)を挙げた。この二パターンは、日本社会特有のポライトネス・ストラテジー(言ってみれば、人間関係における計画・計略)である。これらの場合は要するに、依頼の際に必要とされる相手への特別な配慮が、何らかの理由によって不必要となる場合においては、直接性を持つ当該表現が依頼の意味をもつ、ということになる。また、直接性があることは、相手との心的距離が近いことを示すものになると関根は述べており、上述のような条件下においては、直接的であることが、かえって良い人間関係をもたらし得るとも指摘した。論文の全体をまとめると、「~てください」はあらゆる依頼の場面に使えるというわけではなく、その直接性が是認される依頼の場面において、違和感なく使用できる、ということになろう。
関根(2007)は、「~てください」について意味機能の面からの先行研究が多い中、この表現が持つ性質・性格そのものに注目しているという点で興味深いものでした。冒頭で示した三用法を有するという大勢の見解に対し疑問を投げかけ、新たにポライトネスの視点から自説の正当性を主張する、という姿勢(すなわちここでは、通説に対し異なる視点から意見すること)は参考になります。「依頼として自然かどうか」という見方は、秋学期にて指摘を頂いた「意味素性」にも関わってくると思われます。分類に困る用例には、依頼のような指示や、指示の性格を有した勧めといった、複数の意味素性が絡むものが多数存在するため、この「直接性」がそれにどう影響を及ぼすのかを視野に入れ、引き続き研究していきたいと考えております。
参考文献
関根 和枝 2007. 「~てください」の機能を決めるもの―指示と依頼の間」、『言語文化教育研究』2、pp.98-110