こんばんは、昼ゼミ2年の山下です。秋学期の授業開始が目前に迫っていますが、どの講義もしばらくはオンライン形式ということで、ますます引きこもり運動不足が加速しそうです。明日から、筋トレを始めようと思っています。
今回は、松浦照子(2003)「感覚表現と感情」『日本語学』22(1)、46-54(明治書院)を要約しました。
この論文では、五感を表す表現の中でも語彙数の少ない味覚、嗅覚表現に着目し、雁屋哲作『美味しんぼ』の酒、ワインを味わう場面の表現を例に挙げて分析している。筆者は、少ない語彙数を補うために、別の感覚を表す語彙を用いる、比喩を使う、語を重ねるといった工夫がされていると分析している。また、一連の言語表現には、味わうという動作の中で、感覚への刺激から感情に至るまでの過程をみることができるとしている。
●分析
①嗅覚表現
〈~の香り〉例:木の香り…似ている別のものの香りに例える比喩
〈形容語〉例:甘い…味覚語彙による表現
すがすがしい…冷感による表現
きめが細かい…触覚に基づく表現
豊かだ、濃厚だ…程度を表す語による表現(二字漢語が多い)
〈動詞句〉例:洗練されている…香りの性質について述べる表現
忽然とする…香りを嗅いでいる人間の描写を用いた表現
〈比喩〉例:香りが綾なして体を包む…表現を重ねている
香りを擬人化、または香りの強さを表す比喩
②味覚表現
〈擬態語〉例:すっきり、べたべた…感覚的な表現
飲み口の評価軸に関わり、軽さや鋭さはプラスに評価される傾向にある
〈形容詞〉例:美味しい、うまい…純粋な味覚の表現
軽い、荒々しい…味の性質の表現
懐かしい…味を経験した人の気分を表す、感情形容詞を用いた表現
〈形容動詞〉例:見事、貧弱…評価的な要素が含まれている
〈比喩〉例:しなやかでたおやかで、細やかで、まさに貴婦人といった味わいだ
●考察
・味覚、嗅覚表現に本来ある語彙では対応できず、それ以外の語彙を工夫して用いている
・上記の味と香りの言語表現は、一連の味わう動作を段階ごとに切り取っている
一連の味わう動作:感覚器官で香りや味といった刺激を受け、感情に至る
ことばによる表現:感覚を捉え、感情を解釈し、より分析的に表現する
低い ――――― 客観化の程度 ――――- 高い
①擬態語 ②形容詞 ③形容動詞(二字漢語) ④比喩
この論文で比喩に分類されていない表現でも、実際は何らかの比喩の一種であるものが多いように思います。
漫画『美味しんぼ』で使われる表現は、料理の味や香りが文字だけで読者に伝わるように、より具体的かつ修辞的な言い回しが多用されています。この論文の分析は、様々な食レポ、また、芸術作品を評価する際の表現などにも共通する部分があるのではないかと感じました。