音声対話の言語学的モデル:談話管理標識としての感動詞の分析

こんにちは!昼ゼミ3年の近間鮎美です。面接の試験がある度に「自分らしさ」について考えますが、「私は○○です」と言うにはまだ過程の段階であって、そう胸張って言えるようになるまでには、まだまだ年を重ねなければならないと思ってしまう今日この頃です。「私は○○になる予定です」なんて言ったら落とされそうですね……。

 さて、今日は以下の論文を紹介します。

 田窪行則(1994)「音声対話の言語学的モデル:談話管理標識としての感動詞の分析」『情報処理学会研究報告. SLP, 音声言語情報処理』90(40) pp15-22 一般社団法人情報処理学会

 この論文では、これまで対話のデータとしては無意味なものだとして切り捨てられてきた、間投詞、言いよどみ、呼びかけ、つなぎ言葉などが、話し手の心的処理状態の標識だということを指摘しています。その根拠として感動詞を挙げ、感動詞を「入出力制御系」と「言いよどみ系」に分けてそれぞれの特徴を述べています。

 まず「入出力制御系」の感動詞を、応答系、問い返し系、驚き、迷い、納得の5つに分けています。

 応答系:ああ、はい、はあ、ええ、うん、んん、ふん(下降イントネーション)

 問い返し系:は、はあ、え、ええ、へえ、ふん(上昇イントネーション)

 驚き:あっ、えっ、はっ、ふんっ

 迷い:ううん(高平長)

 納得:ふうん、へええ、ええ、(低平長)

 そして筆者は、これらの感動詞類は原則的に独立文をなし、情報の入出力に関係するとしています。(情報の入出力とは、論文には説明されていませんでしたが、「入力」を、頭の中にある知識や記憶などのデータベースを言語変換すること、「出力」を、データベースに入力されたことがらについて発話することと考えるとわかりやすいと思います。)

 「入出力制御系」の感動詞について「はい、ええ」を例に挙げ、上昇イントネーションの場合は入力に失敗したこと、高平長で母音を伸ばす場合は入力に成功し、出力の評価に時間がかかっていることを示す標識、低平長で母音を伸ばす場合は入力に成功し、それに基づく出力のモードに入ることを示す標識であるとして、この類の感動詞は入出力を制御する標識であることを主張しています。 

 また「言いよどみ系」の感動詞類について以下のような例を挙げています。

 非語彙的形式:え、ええ、単語末母音の調音化

 語彙的形式:

  ①内容計算:ええ(っ)と、ううんと

  ②形式検索:あの(ー)、その(ー)、この(ー)

  ③評価:ま(あ)、なんというか、なんか、やっぱり

 筆者は「言いよどみ系」の感動詞を、出力の際の操作に関係すると述べ、「ただ今検索・演算中」を示す場つなぎ的な語、つまりフィラー(filler)であると定義しています。

 最後に、これら「入出力制御系」と「言いよどみ系」の感動詞は、情報の発出や管理にかかわるものであり、聞き手はこれら話し手の心的モニターの標識としての言語表現を手掛かりに、話し手が次に何を言おうとしているのかを予測して、会話をスムーズにしているのだと結論づけています。

 私は現在、「まあ」の根本的意味・機能についての研究をしています。「まあ」という語には副詞やフィラー、感動詞といった様々な用法があります。それらをまとめて一つの意味として説明できないかと考えて、今回は感動詞についての論文を紹介したのですが、感動詞というのは私がはじめに予想していたものとは違っていました。私は感動詞の「まあ」を、「まあ、たいへん!」のように驚きを表す用法として考えていましたが、この論文では感動詞の「まあ」を、会話と会話をつなげるフィラーとして述べられていました。私が予想していた用法とは違った「まあ」でしたが、この論文を読んでみて私はある仮説を思いつきました。もし筆者が言うように、フィラーの「まあ」が感動詞とするならば、驚きを表す「まあ」も感動詞であるということになります。したがって、驚きを表す「まあ」を、フィラーの「まあ」と同じ要素をもつ「まあ」だとして説明できないか、ということです。

 これまでの「まあ」についての先行研究は、副詞の「まあ」からフィラーの「まあ」が生まれたことを説明することができても、驚きを表す「まあ」を含めては説明することができませんでした。しかし、フィラーの「まあ」も驚きの「まあ」も関係があるとすれば、全ての用法について説明することが可能になるのではないでしょうか。

 今後はこの仮説を実証できるような根拠を見つけて、論文へつなげていきたいと思います。