夜ゼミの須永佑磨です。以下の論文の要約です。
北野浩章(1993)「日本語の終助詞「ね」の持つ基本的な機能について」『言語学研究』京都大学言語学研究会vol.12 pp.73-88.
1.はじめに
北野(1993)では主に終助詞「ね」の機能について考察されている。これまでの数々の研究の中から主要なものを概観した上で、終助詞「ね」の意味・機能について新たに提唱されている。
2.先行研究
「ね」に関する機能について、これまでの研究は主に「共有情報説」「内部確認行為説」に大別することが出来る。
「共有情報説」
「ね」は話し手と聞き手との間の共有情報を表示するのに用いられる。又、(1a)の同意要求、(2)の確認のように聞き手に対する要求が伴うという性質もあわせ持つ。
(1)a.あの車かっこいいですね。
b.そうですね。
(2)彼女は確か沖縄の出身でしたね。
尚、筆者が挙げた先行研究と論旨を以下にまとめる。
大曽(1986):「ね」は話し手と聞き手の情報、判断の一致が前提となる。
益岡・田窪(1989):話し手が相手も同じ知識を持っていると想定する場合に使用される。
森山(1989):「ね」は平叙文では当該情報が聞き手にも存在するという話し手側の仮定の
表示。→「聞き手情報配慮非配慮の理論」
神尾(1990):話し手と聞き手が同一の情報を持っている場合は「ね」が必須要素。
金水(1991):話し手の仮説と聞き手の仮説の強弱関係に注目。話し手の仮説が聞き手の仮
説より強くない場合、聞き手に同意要求や確認をすることを示唆。
「内部確認行為説」
蓮沼(1988):(3)の様に話し手が述べようとしている事について間違いがないか、確かにそうであるか等、確認しながら発話する機能。
(3)a.理想の女性は?
b.やっぱり、しとやかで優しい女性ですね。 北野(1993)
(4)a.お住まいはどちらですか?
b.*神戸ですね。 北野(1993)
(4b)の自分の住所のようにわざわざ確認する必要がないものは不適格になる。
3、問題点
「共有情報説」…(3b)の様に話し手と聞き手との間に情報共有がない例に対する説明不足。
「内部確認行為説」…(5a)(5b)の様に「ね」の使用が内部確認行為と一対一で対応するとは言い切れない。
(5)a.うーん、どんなに考えても、思い出せませんね。
b.うーん、どんなに考えても、思い出せません。 北野(1993)
4、筆者の提案
(6)終助詞「ね」の基本的な機能:
「ね」は、聞き手に対し、話し手の発話が妥当かどうかを確認するために用いら
れる。
すなわち、「ね」が付くことにより発話の妥当性を聞き手に問う、という点に基本的な機
能を見出す。→「発話確認」
「共有情報説」との比較
(6)より、ある種の要求を行っていることから同意要求や確認に通じるものは存在する。
しかし、共有情報という前提は不要としている。
(7)a.ちょっと郵便局に行ってきます。
b.ちょっと郵便局に行ってきますね。 神尾(1990)
(7)についても郵便局に行くという話し手の意思を発話し、その妥当性を問うのが「ね」の機能としている。
「内部確認行為説」との比較
(5a)(5b)の様に内部確認行為と「ね」を直接つなげることは疑問が残る。このような例も「発話確認」の「ね」として考えられる。ただし、聞き手に確認を求める力は小さいか、ほとんどない。
又、(4b)が不適格であることも、聞き手の発話の妥当性を確認する必要がないため、「ね」が使用できないと説明出来る。
主に以上の様な内容から「ね」の基本的な機能が「発話が妥当であるかどうかを聞き手に確認する」ことを示し、様々な現象がこの基本的な機能により説明することが可能であるとし、まとめている。
5、参考文献
北野浩章(1993)「日本語の終助詞「ね」の持つ基本的な機能について」『言語学研究』京都大学言語学研究会vol.12 pp.73-88.
大曽美恵子(1986)「誤用分析1 『今日はいい天気ですね。』-『はい、そうです。』」 『日本語学』明治書院vol.5 no.9 pp.91-94.
神尾昭雄(1990)『情報のなわ張り理論 言語の機能的分析』大修館書店
金水敏(1991)「伝達の発話行為と日本語文末形式」『神戸大学文学部紀要』神戸大学文学部vol.18 pp.23-41.
蓮沼昭子(1988)「続・日本語ワンポイントレッスン・第2回」『言語』大修館書店vol.17 no.6 pp.94-95.
益岡隆志・田窪行則(1989)『基礎日本語文法』くろしお出版
森山卓郎(1989)「認識のムードとその周辺」『日本語のモダリティ』くろしお出版pp.57-120.