無助詞文の分類と段階性

こんにちは、夜ゼミ3年の宮澤比呂等です。就活でまだ不慣れなスーツで動き回っておりますが、先日の大雪では非常に大変な思いをしました。まだまだ寒い日も続きますが、体調にだけは気をつけようと思います。

さて、今回は以下の論文の要約を行いました。

黒崎佐仁子(2003)「無助詞文の分類と段階性」『早稲田大学日本語教育研究』第2号pp.77-93.

筆者は日本語の話しことばに見られる係助詞の「ハ」や格助詞の「ガ」「ヲ」が現れない「無助詞文」を決して誤用ではなく、日本語教育に取り入れるべきという立場に立つ。また、この論文は助詞が「省略」された場合と「もともとない」場合の両方が存在するという立場をとり、これらには段階的な連続関係があると考えている。助詞が復元可能で、助詞があっても不自然ではない場合を「省略」とし、助詞の復元が不可能な場合や、助詞がないほうが自然な場合を「無助詞」としている。そうしたうえで、最初に助詞の省略の可能な程度について考察している。

まず、「ハ」の省略について、「肯定・否定で対立する同類の名詞句の想定されやすさ」と対比感を定義し、この対比感の有無によって主題と対比を区別している。この対比の「ハ」は省略されると対比感が消失してしまう。なので省略することはできない。また、恒常的な出来事や客観的な事実を説明する文の「ハ」も省略することができないとしている。

次に「ガ」の省略について、「ガ」の用法による違いではなく、排他性の有無が省略に関係していると考えている。その排他性とは、二つ以上の候補から選択するかたちになっている、「ガ」がつく成分が主格的な性質をもっている、という二つの条件を満たすぶんである。そして、この排他を表わす「ガ」は省略することができない。また、排他以外にも連体修飾節の中にある「ガ」、存在を表わす平叙文の「ガ」も省略することができない。しかし、存在を表わす平叙文の「ガ」については、具体的な物事の存在を述べる場合のみであり、抽象性の高い物事については省略可能である。

最後に「ヲ」の省略について、移動の場所、起点を用法については省略が可能である。しかし、強調を表わす「ヲ」は省略することができない

次に、筆者は無助詞文を以下の六つに分類している。

  1. 聞き手への情報を求める文
  2. 聞き手への要求を表わす文
  3. 話し手、聞き手が主題の文
  4. 眼前の事象について述べる文
  5. 現象描写文の疑問文
  6. 特別な表現

聞き手への情報、要求を表わす文では、主題が「聞き手」であるが、同時に「尋ねる対象」「要求する対象」でもあり二重主題の文章と認識され、助詞を伴うと対比感が生じやすく、それを回避するために無助詞が選択される。

話し手、聞き手が主題の文と眼前の事象について述べる文は、それぞれ「話し手」「聞き手」「眼前の事象」と主題が明らかであり、それを敢えて顕在化させると対比感が生じる。なのでそれを回避するために無助詞が選択される。

現象描写文の疑問文は、現象描写文は無題の文であり、主題を必要とする疑問文になることはできない。この場合も「ハ」を付加すると対比感が生じてしまう。なのでそれを回避するために無助詞がされる。

特別な表現とは、あいさつ表現や慣用的表現といった表現であり、これらは述部の独立性が高く、主題を要求しない。敢えて「ハ」を付加すると対比感が省略してしまう。

以上をまとめると、助詞が必須な場合は対比、恒常的な出来事や客観的な事実説明の「ハ」、主に排他、例外的に連体修飾節中、具体的な物事についての存在の平叙文の「ガ」、強調を表わす「ヲ」である。「省略」と考えられる場合は、主題を表わす「ハ」とその他の「ガ」「ヲ」。そして、「無助詞」と考えられる場合は、聞き手の情報を求める文、聞き手への要求を表わす文、話し手・聞き手が主題の文、眼前の事象について述べる文、現象描写文の疑問文、あいさつ表現や慣用的表現などの特別な表現である。

今回の論文要約から、今までの自分は「助詞の省略」「無助詞」というものを助詞に一対一で考えすぎていたように思った。より大枠的に「無助詞」を考えることができたと思う。しかし、今回の論文にはやや根拠に欠ける部分もあったため、鵜呑みにするようなことは避けたいと思う。このまま同じテーマで続けていこうと思うが、今回もやはり「無助詞」が選択される理由が対比感の回避という意味合いが強く、「無助詞」がより積極的に選択される例というのがなかった。今後は積極的に選択される理由があるのかどうかという点について探っていきたいと思う。

参考文献

黒崎佐仁子         (2003)「無助詞文の分類と段階性」『早稲田大学日本語教育研究』Vol.2 pp.77-98. 早稲田大学