オノマトペの意味縮小:「わくわく」を例に

みなさんおはようございます。夜ゼミ3年の平村です。提出が遅れたことに対して土下座したい思いでこの要約を書いております。早くネット回線復活しないかな。
しばらくこの記事は晒されることが確定していると思うので早めに切り上げて本題に入りたいと思います。
今回は以下の論文についての要約です。

中里 理子(2003)「オノマトペの意味縮小:「わくわく」を例に」
『上越教育大学研究紀要』 第23号、pp.842-830.

この論文では以下の例を挙げてオノマトペ「わくわく」の意味縮小について論じています。
(1)小萬も何とも云い得ないで、西宮の後に垂頭いて居る吉里を見ると、胸がわくわくして来て、涙を溢さずにはいられなかった。(廣津柳浪「今戸心中」明治29年)
現代語の「わくわく」の意味をとってみると、
(A)期待・喜び・楽しみといったプラスの感情を表す。
(B)これから訪れるであろう事態に対して抱く気持ちを表す。
の2点を満たす時に使われるものであり、(1)の場合だとどうにも違和感を感じてしまいます。これは、(1)の「わくわく」にはプラスではなくマイナスの感情があるからだと中里は指摘しています。
(1)の例が特別なものなのかを確かめるため、中里はさらにいくつかの例を取り上げています。

(2)彼は忌々しそうにかつ刃を以て心部を突き通される苦しさを忍んだかと思うような容子でわくわくする胸から声を絞っていた。(土 明治43年)
(3)怖いやうな、悲しいやうな氣持ちがして、逐出されたらば、實家の嫁さんが、何な顔をなさらう、其れもつらし、と狭い胸一杯になれば、気もわくわく(ありのすさび 明治28年)
(4)あ、阿父は何處に何して居るだァ。と見なさる通りの私ァ二才だ。馴れねぇ事で只わくわくするより外にはねえだ。(観音岩 明治36年)
(5)而して自分も愈よ東京の書生生活に入るのだと思ふと、胸のみわくわくする。(ぐうたら女 明治42年)

(2)はその時その場面で起きた出来事に対する感情を、(3)は現在の怖さに加えて追い出された場合のつらい状況を考えて落ち着かない気持ちを表しており、いずれもマイナスの感情です。
対して(4)は過去から現在における「なれないので落ち着かない様子」を表しており、プラス・マイナスの概念からするとどちらでもない、中立的な意味でつかわれている例です。
そして(5)は現代語の意味と同じようにこれから起こる出来事に対して期待感を抱いており、プラスのイメージを持っています。

以上より昔の「わくわく」は
(C)プラス・マイナス・中立的にかかわらず心の動揺全般を表す。
(D)過去から現在に及ぶ出来事や将来の出来事に対して抱く感情を表す。
という意味特徴を持っていたと考えられ、プラスの感情だけではなく中立的・マイナスの感情に対応していた点、将来の出来事に対する感情に縛られない点で現代語より意味領域が広かったと中里は結論付けています。

すると次に出てくる疑問は「わくわく」が意味縮小した原因です。
これに関して中里はマイナスの意味を持つ擬情語の多さに原因があるとしています。
擬情語の分類
以上のように明治・大正期だけでもマイナスの意味を持つ擬情語はかなりの数が存在し、「わくわく」はプラスの意味を補うために使われるようになったと結論付けています。

語彙は年月を経るにつれて意味が拡張・縮小していきますが、今回取り上げられていた「わくわく」のように言葉が増えすぎたことで意味が縮小するというのはオノマトペらしい意味変化だと思います。他の言葉にはない変化を見せてくれるオノマトペを研究し卒業論文の完成までこぎつけたいと思います。

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