漫才の言語特徴

 こんばんは。昼ゼミ2年・名原です。前に友達から唐突に「好きなキシュは?」と訊かれたとき、ジョッキーのほうの「騎手」だと判断してとりあえず「武豊」と答えたのですが、プリクラの「機種」の話だったことがあります。

金澤裕之、橋本直幸(2005)「漫才の言語特徴」『言語』第34巻第1号、pp.46-49、大修館書店

についての論文レポートです。

概要

 漫才のスタイルの変遷を探り、漫才が一般人に与えた影響を考察。

【漫才のスタイルの変遷】

言葉遊び

・言葉の二義性を利用する伝統的なスタイル。

・例えば夢路いとし・喜味こいしの「若いおまわりさん」というネタでは「今言うぞ」と「今井雄三」のような言葉遊びで笑いを取る。

・なお、このような「役を演じる」スタイルは減少傾向。因みに相羽(2001)は舞台に出てきた時点から役柄を演じているタイプのものを「コント」として漫才と区別した。

いとし:今言うぞ

こいし:だから早よ言わんかいな、もう

いとし:今言うぞ

こいし:名前を聞いとるから、早よ言えっちゅうのや!

いとし:今井雄三!名前が今井雄三…

合いの手

・合いの手や繰り返しをすることで話をリズミカルに進行させるという効果がある。

・オール阪神・巨人にも見られる伝統的な「漫才らしい漫才」のスタイル。

巨人:目を殴られた

阪神:あー、これはね(合いの手)

(中略)

巨人:僕はしっかりしてました

阪神:あ、しっかりしとった(繰り返し)

フリートーク

・ダウンタウンが始めたとされる比較的新しいスタイル。

・日常の会話のようなうなずきによるあいずちが多く見られる。

・「合いの手」よりもリズムの悪さがあるが、より自然な会話に近いという魅力がある。

松本:ほいで、あ、あ、ブギーボードもやりましたですね。で、スキューバを…

浜田:あ、やってきた?

松本:あのねェ…

浜田:うん

【漫才が日常の言葉に与えた影響】

流行語

 松本(1999)では「キレル」は楽屋用語の「線切れ」に由来すると述べた。

 それに加え筆者は自身の感覚を根拠に「いたい(性格が奇妙な人や、勘違いしている人に対する形容)」や「寒い(ギャグがつまらない、しらける)」や「いたい」「かぶる」「かむ」「きれる」「さむい」「ひく」「へこむ」などが芸人が広めた言葉なのではないかと指摘。

 データより「きれる」「ひく」「寒い」が単なる「流行語」にしては寿命が長いことが分かる。

ノリツッコミ

 芸人によるお笑いの文化が、語彙にとどまらず談話的要素まで浸透していることを示している

参考文献

相羽秋夫(2001)『漫才入門百科』弘文出版

松本修(1999)「キレる・ムカつく考-大阪の芸人がテレビで広めた言葉」『地域方言と社会方言(『日本語学』臨時増刊号)18-13

感想

 ダウンタウンは漫才の新しいスタイルを確立し流行語も作ったということで、日本語の文化にも大きく影響を与えたのだと分かり面白かった。楽屋用語が生き延びやすいのは、一般人にとっても日常の言葉として落とし込みやすいからだろうかと考察した。

 流行語の部分は「筆者の感覚として」芸人が発端となり広まったと考えられるものだということだったので、実際の発端は不確実な点が気になった。どうして芸人が発端だと考えたのかという根拠だけでも載せたほうがよいのではないかと感じた。