「よろしかったですか」について

こんにちは。昼ゼミ3年の佐々木です。

ユーキャンのCMの「問題出して大丈夫?」という言葉がすごく気になっています。卒論に使えるでしょうか。

卒論のテーマで接客表現の「大丈夫(です)」について調べているので、今回は別の接客表現について調べてみることにしました。私が紹介するのは以下の論文です。

阿部 新(2011) 「「よろしかったですか」等の表現の自然さに関するアンケート調査の分析」

『名古屋外国語大学外国語学部紀要』, 41,pp. 127-145

 ここ十年くらいの間にだいぶ浸透しつつある、接客場面での表現。塩田(2002)によると、特にファミレスやコンビニエンスストアでよく使われる表現として「ファミ・コン方言」という社会方言に分類することが出来る。

本論文中では「よろしかったでしょうか」に限定して調査を行い、日本全国の満20歳以上の男女2000人に調査を行い、以下のような結果を得た。

Ⅰ従来使われている以下の「確認用法」と呼ばれるものについては、違和感は生じない。

[1]記憶確認用法

(1)店員「さきほどご注文されたのはみそラーメンでよろしかったでしょうか。」

[2]妥当性確認用法

 (2)店員「ご自宅用に包装してしまいましたが、よろしかったでしょうか。」

 これらはいずれも過去の事柄に対する確認の為、正しい使い方である。

Ⅱ確認すべき記憶がないにも関わらず用いられる「いきなり用法」へは許容度が下がる。

 (3)店員「いらっしゃいませ。店内でお召し上がりでよろしかったでしょうか。」

 調査の結果Ⅱに関して北海道・愛知で聞いたことがある人が全国平均より多かったため、「方言起源説」を提示した。北海道を含む東北地方では「~している」というアスペクト表現が「シテイタ」と表現される現象があること、挨拶言葉で「モシモシ佐藤デシタ」のように「タ」を用いる地域が多いことから、「よろしかったですか」が用いられるようになったという推測である。

 一方愛知を含む東海地方では、現在の状況をじかに示さず完了したかのように示すことで丁寧さを表現しようとする傾向があるという。「よろしかったですか」に関しても、客が到着する前から何らかの予備的配慮を行っていたことを過去時制によって示し、配慮を続けていたことが丁寧さに繋がるという意味効果を帯びることによって、過去時制が丁寧さを帯び、用いられるのだろうと推測されている。(渡邊,2007)   

しかしこれらの方言の使用者たちに「よろしかったですか」の方が「よろしいでしょうか」より丁寧に感じるか調査しても全国値とさほど変わりなく10%超程度の回答だったことから、この説は断定しがたい。では何故このような表現が愛知で広がっているのか。それを調べる為に愛知県の大学生に対し、「よろしかったですか」という表現並びにそれに類する表現の「自然さ」に関するアンケートを実施した。愛知を中心に東海地方に住む67名の男女(男性17名,女性50名)から、それぞれ以下の結果が得られた。

(4)店員「ご注文は以上で…   」に続く各表現の自然さ

よいですか・いいですか<よかったですか<よろしかったですか<よろしいですか

よい・いい<よかった

よろしい>よろしかった

 なお、男性に限って言うと、50代店員が用いる場合に関しては「よろしいですか」より「よろしかったですか」の方が自然に感じるという結果が得られた。この結果は、「よろしかったでしょうか」の方が「よろしいでしょうか」より丁寧に感じるという回答がどの世代よりも50代が高かったという塩田の研究から、聞き手も50代の話者なら実際に使用する人数が多いためそのように感じるのだろうと推測される。以上から得られた筆者の結論は以下の二点である。

①   東海地方では年配の話者は過去時制を用いた接客表現を用いるのが自然だとする傾向がみられる。

②   男性回答者は女性回答者に比べて過去時制を用いた接客表現を自然だとする傾向がみられる。

 終わりに。まず北海道の方言起源説について。私は北海道出身だが「~タ」の習慣がなく、方言で「~タ」が多用されるため「よろしかったですか」も使われるようになったとは考えがたい。周りの人間も北海道より東京の方が「よろしかったですか」をよく使っているように思える。関東圏の方が店舗数が多い割にマニュアルが整っておらず、自分や先輩の言語知識だけに頼った結果このような表現が生まれたのではないか。地元北海道でどれくらい使用されているのかを調べ比較すると面白いかもしれないと思った。筆者の東海地方に関するアンケートは人数も少なければ男女比も偏っているため正確な傾向とは言い難い。他に論文でもっと正確に裏付けるようなデータがないか、引き続き研究を進めていきたい。