絵画の特徴を述べる共感覚表現とその効果

 こんにちは、昼ゼミ2年の山下です。この間、大学の図書館の入り口のところに、ものすごく大きな蛾が力尽きて転がっていました。東京にこんな巨大な虫いるのか…と驚きました。

 今回は、岩橋一樹(2005)「絵画の特徴を述べる共感覚表現とその効果」『日本語用論学会大会研究発表論文集』第一巻、9-16(日本語用論学会)を要約しました。

 この論文では、絵画の特徴を述べる共感覚表現について、関連性理論の観点から分析し、その表現が具体的に何を伝達しているのかを考察している。筆者は、絵画の特徴について述べるときに共感覚表現を用いることで、視覚的特徴に留まらない書き手の作品に対する様々な印象が、読み手に伝達されると主張している。

●分析

・It is a chromatically muted painting

〈解釈過程〉

1.表意:その絵は色が静かな(MUTED)絵である

+百科事典的想定:静かであれば本来よりも抑えられている

=結論・推意①:その絵は色が本来よりも抑えられている絵である

2.推意①+百科事典的想定:色が本来よりも抑えられれば色が地味である

=結論・推意②:その絵は色が地味な絵である

・this warm ‘Portrait of Sinatra’ is typical of his lively character

〈解釈過程〉

  • 表意:この温かい(WARM)シナトラの肖像画は彼の陽気な性格を表している

+ 百科事典的想定:温かいと人間の生命が感じられる

= 結論・推意①: 人間の生命が感じられるシナトラの肖像画は彼の陽気な性格を表している

2.推意① + 百科事典的想定:人間の生命が感じられる肖像画は題材(書かれている人 )から生命が感じられる

= 結論・推意②: 題材から人間の生命が感じられる肖像画は彼の陽気な性格を表している

3.推意② + 百科事典的想定: 題材から生命が感じられるということは描写が活き活きしている

= 結論・推意③: 描写が活き活きしているシナトラの肖像画は彼の陽気な性格を表している

・A harsh picture shows a car vs. nature

〈解釈過程〉

1.表意:粗い(HARSH)絵が車と自然の対立を示している

+ 百科事典的想定:粗いと手が加えられていない

= 結論・推意①:手が加えられていない絵が車と自然の対立を示している

2.推意①:手が加えられていない絵が車と自然の対立を表している

+ 百科事典的想定:手が加えられていなければ絵に描かれている状況が荒々しい

= 結論・推意②:描かれている状況が荒々しい絵が車と自然の対立を示している

●考察

視覚以外の感覚を想起させることで、色の濃淡や描画の性質といった視覚的特徴だけではなく、描かれている題材や状況といった、書き手が絵に対して抱いた様々な印象がより具体的に読み手に伝達される 

 この論文は、関連性理論を用いることで、特に作品を評価する場合の共感覚表現が伝えるものを具体的に明らかにしている点が興味深いです。分析に使われていた例はすべて英語で、この分析の前提には百科事典的想定というものがあったので、同じ表現でも日本語と英語で伝達する内容に差が出るのか、百科事典的想定の中身に違いはないか、中身がどのように形作られているのか調べてみたいです。

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