皆さんこんばんは。昼ゼミ2年の佐々木遥奈です。今バイト帰りで眠さと戦いながらこの課題を書いています。新年になってからまだ皆さんとお会いしていませんが、今年もよろしくお願いします。
さて、今回は以下の論文を要約します。
村田和代(2004)「テレビコマーシャルの好感度 世代別言語ストラテジーの視点から」『メディアとことば1 「マス」メディアのディスコース』pp.2-35
テレビコマーシャルを作る目的で最も大きいのは、不特定多数の視聴者に広告対象商品を購入したもらうことです。ゆえに、広告の表現に求められているのは「商品を売る力」であると言えます。
普及している広告効果の心理階層モデルとしてアイドマ(AIDMA)の法則というものがあります。これは、「消費行動」(消費者が広告によって商品を知り、それを購入するに至るまでの心理的過程)の仮説で、Attention(注意)、Interest(興味)、Desire(欲求)、Memory(記憶)、Action(行動)の各頭文字を取ったものです。この法則に則れば広告作成者側は広告(商品)に注目させて興味を持たせて欲しがらせればいいわけですが、ここで注意や興味に繋がらせるのに「好感を持ってもらう」ことが大事になってきます。フランツェン(1996)の研究にも、広告が「心地よい」など好意の度合いが高いほど広告の効果を高めるという結果が出ており、また、消費者の価値観自体が、「良いから好き」ではなく「好きだから良い」に変わってきていると言えます。(奥野,1997)
そこで、CM好感度調査で、消費者がどのような理由で好感を持つか、というのを1500名のモニターを使って調査したところ、1位が「出演者」、2位が「ユーモラスな所」、3位が「宣伝文句」(1990年~1996年)(1997年~1999年は3位が「ストーリー展開」、「宣伝文句」は4位)という結果が出ました。この結果をみると、「話されていることば」が、好感を持てるか否かを左右すると言えます。 (ここの部分は、結論がやや強引な印象を持ちました。この結果からは「話されていることば」は多少影響するにしても、左右するとまで言えない気がします。)
ゆえに、視聴者に好感を持たれるコマーシャルで使用されることばは、視聴者に好感を持たれることばであると考え、村田は分析対象を登場人物やナレーターが直接視聴者に向けて語る言葉に限定し、言語使用はどのような特徴があるか、視聴者の好感度を得るためにどのような言語ストラテジーが使用されているのかについて以下の方法で分析しました。
1999年度の好感度Top500のテレビコマーシャルにはどのような言語特徴が見られるのかを、1999年5月19日の番組開始から20日の番組終了まで朝日放送(大阪)で放送された全コマーシャルと比較して、登場人物の世代別で言語使用を考察。
どちらも登場人物が20代までを若者コマーシャル(以下、若者CM)、30代からを大人コマーシャル(以下、大人CM)として世代分別して分析しています。
若者CMでは友人と話しているような話体(speech style)が好まれ、基本スピーチレベルは常体(「~だ」「~である」といった言い切りで終わる形)でした。また、述語部分の省略やオノマトペ、造語、語呂合わせや押韻、体言止めなども多く見られました。これらにはコマーシャルに活気やリズムを与えユーモラスに仕立てる(オノマトペ、語呂合わせ、押韻)、注意を喚起し、文にするより短く終えることで強い印象を与える(体言止め)、解釈を視聴者に委ねる(述語部分の省略、体言止め)などの特徴があります。若者CMは慣習的な語や表現を使わずに、同じ意味のインフォーマルな語や表現を使用していて、堅苦しさを払拭する傾向にありました。これらは若者語(米川、1996)のカテゴリーに入ると同時に、相手との距離を縮めるためのポジティブポライトネスの言語ストラテジーに含まれます。しかし、若者語は会話を促進したり連帯感を表す機能がある一方で、「仲間内のことば」という最大の特徴を持つ以上、全ての世代でポジティブポライトネスとして機能するとは言い難いと言えます。
大人CMでは、比較的年齢層の高い登場人物では、丁寧体(「~です」「~ます」で終わる形)の使用が基本で、友人に話すような口調はほとんど見られませんでした。彼らは、これまでの日本語に見られる敬語という体系の中に身を置き、丁寧な話体(speech style)に好感を持つと考えられるので、登場人物やナレーターと視聴者の間に一定の距離を保ったまま親しみを表すことには好意的でも、若者世代のように友人のように語りかけられることに対してはあまり好ましいとは考えていないのです。
スピーチレベルを基本(常体or丁寧体)に保ちながら、相手に親しみを表せるように、終助詞(「よ」「ね」」「よね」など)を付加しているものもありました。終助詞は話者の伝達態度を表し、話し手と聞き手の潤滑油のような役割を担い、また、堅苦しさ(formality)を緩和する特徴があります。
また、ターゲットが若者・大人という区分を超えて広い年代層向けに設定されているコマーシャルでは、コマーシャルの最終文ないしはその直前に丁寧体を使用するという特徴が見られました。基本スピーチレベルを丁寧体とする大人CMでは、視聴者、特に若い世代に親しみを表すために一旦常体を使用することでダウンシフトするものの、最後には丁寧体に戻しています。一方で、若者CMでは、彼らの基本スピーチである常体を使用し、最後に年代が上の視聴者への配慮で丁寧体へアップシフトしています。スピーチレベルの上げ下げにより、広い年代層の視聴者への配慮を示しているのです。(私はここの解釈を、広い年代層の視聴者への配慮ではなく、親しげに話していながらも結局は消費者はお客様なので、お客様全般に対する配慮なのだと考えました。)
この論文のように若者・それ以外と世代を2区分するのではなく、もっと細かい分類で調べた方が面白いと思います。また、どの終助詞だとどの年代・性別に好感度を持たれるか、などの調査結果も知りたいと思いました。若者だから常体のCMに惹かれる、というのは必ずしも当てはまらないと思います。それは話者に対する好き嫌いも当然あれば、喋っているトーンや速さ、喋り方も大いに関係すると思うからです。さらに、この調査だとテレビが世に出始めたころの方が大人の世代として区分されていますが、テレビが普及し始めた世代、テレビなしには生きていない大人世代は、さほど丁寧体にはこだわっていないのではないかと考えられます。崩れているとは言えないまでも、敬語という体系が緩くなってきていると考えられるからです。時代の変遷とともに世代の感覚も変わってきていると思うので、そのことも加味しながら授業で進める研究とは別に学習を進めていきたいと思います。
参考文献
村田和代(2004)「テレビコマーシャルの好感度 世代別言語ストラテジーの視点から」『メディアとことば1 「マス」メディアのディスコース』ひつじ書房,pp.2-35