ノダ文の提示するもの――「解釈」という観点から

おはようございます。昼ゼミの桜井香澄です。元日から高熱を出し、病院も休みだったのでタミフルももらいに行けませんでした。正月三が日の記憶がほとんどありません。とても損した気分です。皆さん、体調にはお気をつけください。ところで、今日は以下の論文をレポートしたいと思います。

名嶋義直(2001)「ノダ文の提示するもの――「解釈」という観点から」『ことばの科学』14、pp.71-92.

名嶋は、ノダが提示するものは「ある先行発話や思考」の「解釈」であるという観点から考察しています。

最初に、「解釈」を「ある発話や思考を別の表現や別の視点からとらえなおし、『関連性のある発話』たらしめる行為」と定義しています。

(1) A「ここは危険です。」
B(普通の店だと思っていた)→「ぼったくりバーなんだ。」

(1)の例では、Aの発話をBが解釈したということです。
次に「描写的用法」と「解釈的用法」について説明し、それがノダ文の分析に有効であると述べています。

(2) A:先生、何て言った?
B:明日テストをしますと言った。
(3) A:先生、何て言った?
B:明日プレゼントがあるって。

(2)は描写的用法、(3)は解釈的用法です。ある文が、事態を「描写する」ために用いられた場合は描写的用法に、「話し手や他者の発話や思考」を「解釈して」言い表すために用いられた場合は解釈的用法に属するとしています。

そして、話し手の先行会話を「解釈」する場合と、聞き手の先行発話を「解釈」する場合の具体例をあげ、ノダが「ある解釈」を「聞き手側からの『解釈』(またはその一部)として」提示するという機能を持つことを検証しています。
話し手の先行会話を「解釈」する場合では、「言い換え」「詳細説明」「繰り返し」「付け足し」「一般化」があると述べ、次の具体例を挙げています。

・ 言い換え
先行発話や思考に対する「より具体的な解釈」を提示しています。

(4) オヤジ:これで○○組の組長をはじいてこいや。なに、チョイとケガをさせるだけでええ。殺さなくていいんだ。

・ 詳細説明
後行発話が先行発話に対する詳しい説明として機能しています。

(5) 六月―ネパールは、すでにモンスーンに入っている。これから、ヒマラヤの南側が、一年のうちで最も雨の多い時期に突入していくのだ。

・ 繰り返し
先行発話は「事態」、ノダ文は「解釈」を提示しています。

(6) それ、私です。私。私なんですよ。

・ 付け足し
ノダ文が提示する「解釈」が、先行発話から聞き手が導き出すであろう「解釈」をさらに豊かなものにしています。

(7) β‐グルカン含有量は100gあたり11.6g。それだけではありません。最近ではβ‐グルカン以上に研究者の注目を集めているポリフェノール酸化酵素も、豊富に含んでいるのです。

・一般化
一般的であると思われる第三者の思考を「解釈」したこと(またはできなかったこと)を示し、命題に対する話し手のとらえ方や表現態度を示しています。

(8) (韓国で。大学が購入した日本製印刷機の説明書の翻訳を頼まれて)なぜ日本製を購入するのだ!

聞き手の先行発話を「解釈」する場合は、話し手が他者の先行発話を受けて、その発話に対する「解釈」を提示する場合にノダが用いられることがあると述べています。

(9) 裕子「帰りたくないんだ、家になんかー」
金子「おい、裕子、どうしたんだよ?おいーどこにいるんだ今?わかった、俺、すぐ行くから、待ってろ。」

(9)の金子のノダ文は、聞き手の発話を「原因」と「居場所」という2つの観点から「解釈」しています。

(10) (引っ越した上村家について、見知らぬ恵里にいろいろ尋ねられた主婦が、今度はやや胡散臭げに恵里に質問する)
主婦:あなたは?
恵里:あ、沖縄から来たんですけど、昔の友達なんですよ。文也くんの。

「あなたは?」という質問を、話し手は「あなたは誰で上村家とはどういう関係なのか」という質問であると理解し、それに対し回答しています。しかし、単に回答するのであれば(10)の下線部のノダは必要ありません。したがって(10)は(11)のような「解釈」を話し手が聞き手に「聞き手側からの『解釈』として」提示していると名嶋は主張しています。

また、先行発話に対する「解釈」だけでなく、因果関係を述べていると理解されるノダ文も「解釈」という観点から記述できるといいます。

(11) 只野:ハイ。しかし、もう少し調べさせてください。
会長:なぜだ?
只野:以上がなさすぎてかえって気になるんです。

ノダで提示されているのは聞き手が導き出そうとした2事態間における関係解釈「只野はXという理由で『もう少し調べさせてくれ』と言っている」の不定部分Xを埋めるものです。(11)のノダで提示されているのは、話し手(只野)の思考に対する聞き手(会長)の「解釈」であると言えます。
これと関連して、語り文についても述べられています。語り文でノダが用いられやすいのは、それまでの経過をまとめて提示するという語り文の機能と「聞き手側から見た『解釈』として」提示するというノダの機能が共通性を持つからだとしています。
名嶋は、ノダ文はある「解釈」を「聞き手側から見た『解釈』として」話し手が提示するものであり、非ノダ文は「生起した事態の描写」を行うものであると考えることができると主張しています。

私は終助詞としての「もの」について調べています。「~ノダモノ」「~モノ」の両方の言い方があり、それぞれの違いがどのようなものであるかという点に繋げていきたいと思い、この論文を要約しました。ノダが提示するものは事態や命題ではないという点が興味深かったです。