こんにちは。夜ゼミ2年の三浦結です。最近寒い日が続いていますがみなさん元気でしょうか。よく、「東北出身だと寒さに強いんでしょ?」と言われますが寒いものは寒いです。みなさんも風邪をひかないようにして春休みを満喫してください。
さて、今日は以下の論文についてまとめます。
小出恵一(2011) 「応答詞『そうですね』の機能について」 『埼玉大学紀要(教育学部)』第47巻第1号、pp.85-97.
私は後期に相づち表現の「そうですね」について調べたのですが、最近になってこの論文が新しく発表されたことと、私が発表したのと同じ先行研究を扱っていたということでこの論文を読むことにしました。この論文では「そうです」と、筆者が分類した2種類の「そうですね」(以下、「そうですねA」「そうですねB」とする)の性質、関係性について述べています。以下、要約です。
1.はじめに
「そうです」・・・先行する会話が「XはYだ」と解釈できるとき、その認識を肯定するもの。
(1)A:明日は休みですよね。
B:そうです。
「明日」について、「Aが言っていること(X)」は「その通り(Y)」だ、ということ。
「そうですねA」・・・「そうです」と置き換えが可能で、問いかけに同意するもの。
(2)A:そうするとわりかた短いシリーズ。
B:そうですね。もう本当にあのーそうですね。4、5日通勤すると終わるかなと言うような長さです。
「そうですねB」・・・「そうです」と置き換えが不可能で、同意ともいえないもの。
(3)A:ああ、でもこれぞという十八番はありますか?
B:これぞは、そうですねえ、スパゲッティは好きですけれども色々作ります。
吉村(2000)が「耳障りなほど頻繁に使われている」と言っていた「そうですね」はこちらのBタイプです。
2.「そうですねA」について
小出は斉木(2008)が『「そうですねA」は「ね」があってもなくても意味は変わらない』としたが、「そうですねA」と「そうです」は本当に同じ意味なのかということを以下(4)の例文で検証しています。
(4)a. A:あなたは田中さんですか。 田中:そうですね。/そうです。
b. A:あなたのお住まいは横浜ですか。 B:そうですね。/そうです。
c. A:平成元年は1989年ですか。 B:そうですね。/そうです。
d. A:円周率は3.14159265ですか。 B:そうですね。/そうです。
(4)の例文すべてにおいて「そうです」と応答することは可能ですが、「そうですね」は可能なものとそうでないものがあります。たとえばaやbなどの個人領域への質問に対する応答では「そうですね」は不自然に感じられ、cの元号と西暦の換算、dの円周率の記憶検索など、回答に手間がかかる質問になるほど「そうですね」の自然さは高くなる、と小出は解説しています。このように「そうですね」が「そうです」と異なる点は、それが正しいかどうかという「命題の成否」の判断を示すことが中心なのではなく、判断に至るまでの話し手の心的な仮定の存在がしめされるところであり、心的過程がない場合や認められない場合には「そうですね」は現れないはずだと述べています。
3.「そうですねB」について
「そうですねB」ははじめにで見たように先行発話の命題的な内容には関係しません。これはA類と異なる点であり、B類では内容的な側面が希薄になった分、談話形成にかかわる側面が強くなっています。小出は特徴として以下のものをあげています。
- 相手の発話を受けて発せられる。
- 発話権を持つ場合のみ出現し、あいづちの「そうですね」はB型ではない。
- ターンの冒頭だけではなく文中にも現れる。
また、「そうですね」をフィラーの一種と捉える人がいますが、フィラーの典型例は取り去っても談話の内容に関係しないもの(「えー」「うーん」など)です。この「そうですねB」は談話形成の働きを持つため、はじめにの(3)の例文では取り去ることはできないとしています。
4.まとめ
小出は2つの「そうですね」の共通点と関係について以下のように述べています。
A類とB類の共通点は心的反芻の過程が存在すること。
(A類は前の会話の内容に対しての確認、判断などの過程が想定され、B類では心的なものが現れる過程と連動していると考えられる。)
- 「そうです」:前の会話を「XはYだ」という判断と捉え、情報的な観点で肯定する。正誤の観点を重視。(命題的)
- 「そうですねA」:前の会話中の判断について、自分で考えた結果その判断が許容できることを示す。正誤の観点は二次的なものになる。(対人的)
- 「そうですねB」:前の会話を受け、その話題を捉えなおしたうえで自分の意見の表出を行うことを示す。(談話的)
5.考察
後期の発表で定延・田窪(1995)の「『そうですね』は“フィラー”の働きを持つと考えてよい。」を取り上げてまとめにも入れたのですが、今回の論文では「そうですねB」はフィラーとは別物だと批判している点が興味深かったです。今後も「そうですね」の持つ機能や分類の仕方について深く掘り下げていきたいと思いました。
それではみなさん良い春休みを。
参考文献
定延利之・田窪行則(1995)「談話における心的操作モニター機構―心的操作標識『ええと』と『あの(ー)』」『言語研究』第108号、pp.74-93.
吉村浩一(2000)「『そうですね』の会話分析の枠組み―心理学とエスノメソドロジーからの検討―」『社会環境研究』(金沢大学)第5号、pp1-10.
斉木美紀(2008)「談話分析から見る『そうですね』」『横浜国大国語研究』第26号、pp.60-45
小出恵一(2011) 「応答詞『そうですね』の機能について」 『埼玉大学紀要(教育学部)』第47巻第1号、pp.85-97.