「役割語」研究と社会言語学の接点 

 

こんにちは昼ゼミ2年の丸茂です。気づけばもうすぐ2月ですね。テストも終わり春休みが始まりました。長い春休みを充実させたいものです。さて、私は以下の論文を紹介したいと思います

「役割語」研究と社会言語学の接点 金水敏(2007)

「役割語」という概念は、金水 (2003)で提唱されました。また、フィクションのみならず日常会話でも使用されています。役割語を属性や言語面から論述し、さらに役割語の持つ機能とコミュニケーションの関係を述べています。

a. そうよ、あたしが知ってるわ

b. そうじゃ、わしが知っておる

c. そうですわよ、わたくしが存じておりますわよ

d.そうだよ、ぼくが知ってるのさ

a~dは同じ内容を述べています。このように、ある特定の言葉遣いを聞くと特定の人物像(年齢、性別、社会的階層、性格、時代等)を思い浮かべることができるとき、その言葉遣いを「役割語」と呼びます。

役割語とは、人物像=人物の「属性」(カテゴリー)とスピーチスタイルが心理的に連合し成立しています。言語共同体の中で共有され、社会的に共有された心理的連合をこそ、役割語の本質と述べています。また、属性のヴァリエーションは膨大で、また、文脈・状況に依存した、臨時的属性を導入する可能性もあります。

次に、言語面からみていきます。役割語の特徴は、大きく3つ挙げられます。

(1)人称代名詞 (わたし、あたし、わし、おれ、おいら、ぼく、うち、われ、拙者 等)

(2)断定の助動詞 (だ、です、である、でございます、でありんす、じゃ、等)

(3)終助詞 (わ、よ、ね、のう、ぜ、ぞ、わい等)

この3つは人物像を形成する重要な要素であると述べられています。(1)の人称代名詞は特に一人称に現れる傾向にあります。

さらに、言語面でも細かく分類することができます。

◎語彙面

・(狭義)敬語(尊敬語、謙譲語、丁寧・丁重語)の使用・不使用、また敬語の段階。

・美化語、専門用語、業界用語、ジャーゴン、略語等の使用・不使用

・感動詞、笑い声、生理音等:あら、おい、こら、うむ、おお、ははは、等

◎文法・語法的側面

・助詞の省略・非省略:「水がほしい」 vs. 「水φほしい」

・ピジン的特殊語法:「時間無いアル、早く払うヨロシ」等

◎音声的側面。

・音便、母音融合、音素の脱落・挿入等:「知らねえ」「そりゃあそうだ」、「行くのだ」 vs. 「行くんだ」等

・アクセント、イントネーション

◎語用論、ディスコース的側面。

・命令形の使用・不使用:「やめろ」「やめてくれ」cf. 「やめて」「やめてちょうだい」

・講義的口調の有無

・感嘆文の使用の多寡

言語面において細かく分類することができ、語彙、語法・文法に関しては、言語差が大きいとわかります。

コミュニケーションにおける役割語の機能は、スピーチスタイルの選択によって、話し手の属性を聞き手を中心とする周囲の参加者に伝達する機能を持っています。標準語と方言の切り替え、普通体と丁寧対の切り替えといった現象のように、それによって話し手の属性が伝達されているとすれば、役割語はメタ・コミュニケーションの一部であると述べられています。男性の発話における「ぼく」と「おれ」の選択・切り替えなどを観察すると、日常会話におけるスタイルの選択や切り替えが、フィクションにおける役割語の選択と共通の知識を参照していると言えます。

日常会話における遊びの要素としての役割語の使用については、親しい間柄での会話では、臨時的にさまざまな役割語のスタイルが用いられることがあり、音声会話だけでなく、携帯メールのやりとりでも観察されます。会話における遊び的な役割語の適用は、会話の雰囲気を和ませ、一体感を得る機能があると述べています。

一人称や語尾で人物像が変わる役割語に興味を持ちました。心理的連合と社会的共有があるからキャラクター像が形成されることが分かりました。言葉とイメージが密接に関係していることから役割語を心理面から考察していきたいと感じました。

参考文献

金水敏(2007) 「役割語」研究と社会言語学の接点