「聴覚障害者の記憶における符号化」

こんにちは。昼ゼミの谷地田です。現在私は幼稚園と小学校が併設されている学校に通い学生ボランティアをしていますが、子ども達の笑顔がとても可愛らしくて楽しい日々を送っています。

  ところで、今日は以下の論文の要約をします。
長南浩人(2004)「聴覚障害者の記憶における符号化 ―日本語単語とそれに対応する絵と手話を材料にして―」『高知女子大学教育心理学研究』第52巻,2号,pp107-114

 この論文では、長南が聴覚障害者の日本語と手話の能力の違いによって記憶成績に違いが出るということを指摘しています。Paivio&Desrochers(1980)は、記憶実験を行い画像優越効果を実証しました。これは、絵のような具象的刺激は言葉のような抽象的刺激よりも記憶成績がよいというものです。そこで長南は、聴覚障害者の中には手話と日本語の2つの言語を記憶し、会話の相手に応じて使い分ける者がいるため、上記の考え方に従うと、視覚的情報である手話の方が日本語のみの符号化よりも記憶成績がよいものと予想しましたが、恣意性の高い手話があることを考慮すると、全ての手話が絵と同様の記憶成績を示すかどうかについては、写像的な手話と抽象的な手話に分けて実験する必要がある、と指摘しています。 以下、この実験内容を簡単にまとめます。

《被験者》
 長南は被験者をAろう学校高等部生徒34人、Aろう学校を2~3年前に卒業した聴覚障害者24人の計58人とし、彼らを手話上位日本語上位群(GG群)、手話上位日本語下位群(GP群)、手話下位日本語上位群(PG群)、手話下位日本語下位(PP群)の4群に分けました。

《実験計画》
 実験計画としては課題の種類(①写像的な形態である手話から日本語へ変換する写像的手話提示条件、②抽象的な形態である手話から日本語へ変換する抽象的手話提示条件、③絵から日本語へ変換する絵提示条件、④日本語単語を書き写す書き写し条件)×被験者の手話と日本語能力による群(GG群、GP群、PG群、PP群)の2要因計画としたようだ。

《実験結果》
 実験結果は以下のようになったとされる。
〈提示の種類〉
①:GG群>GP群=PG群=PP群
②:GG群>GP群=PG群>PP群
③:PG群>GG群=GP群=PP群
④:PG群>GG群=GP群=PP群

〈群〉
GG群:①=②>③>④
GP群:①=②=③>④
PG群:③>①=②=④
PP群:③>①=②=④

 さらに長南は、それぞれの実験結果について詳しく見ています。 まずGG群についてですが、手話による符号化では、絵という3つ(絵+イメージ+言語)のシステムや日本語という1つのシステムによる符号化に加え他のシステムが働いたものと考えられています。 次にGP群についてですが、手話による符号化では、日本語、手話、イメージの各システムにより符号化がなされたものの、日本語システム内の語とイメージシステムとの結合が不十分であったため、日本語システムを十分に利用できず、結果的に3つの符号化がなされる絵と同様の再生成績になったものと考えられています。 次にPG群についてですが、絵による符号化の場合、絵、イメージ、日本語の3つのシステムによる符号化がなされ絵の優越効果が見られますが、手話を提示しても手話システムが発達してないことから、符号化の際に手話システムを十分に利用できず、手話による符号化の再生成績が低かったものと考えられています。 最後にPP群についてですが、手話システム、日本語システム双方が十分な発達をしておらず、このためイメージシステムとの結合や各システム相互の結合も十分になされていないため、本実験のような結果になったものと考えられています。

 以上のことを踏まえて、長南は聴覚障害者には、日本語、手話、イメージの各システムが存在しており、日本語と手話のシステムがそれぞれ独立して機能し、イメージシステムが活性化することによって、日本語と手話の各システムが結合して機能している、ということが確かめられた、と述べています。

 この論文で特に面白いのは、各グループの手話と日本語の能力の違いが各システムの結合の強度に影響を与え、このことが各グループの再生成績に違いを与えたというところです。これは私の研究テーマでもある、手話の成り立ちに結びつく考えです。しかし、今回は聴覚障害者のみを被験者としているため、聴覚障害者の手話と日本語の独自な符号化プロセスを検討するには、健聴者のそれとの比較する必要があると考えます。

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