「女ことば」と「男ことば」の使用基準が切り替わる心理過程について

こんばんは。夜ゼミ3年の本嶋です。1月も残りわずか。あと2週間もしたらチョコレートの祭殿(?)がやってきますね!
あげる予定がある人もない人も、もらう予定がある人もない人も、皆わくわくソワソワ良い季節ですね!美味しくチョコを食べて楽しくいきましょう‼

ところで今回は、以下の論文について報告したいと思います。

有泉優里(2009)「「女ことば」と「男ことば」の使用基準が切り替わる心理過程―プライミング手法を用いた検討―」『日本語とジェンダー』第9号、日本ジェンダー学会www.gender.jp/journal/no9/03_ariizumi.html

この論文では、「女ことば」「男ことば」の使用基準を人々が無意識に切り替える心理過程に着目し、状況によって言語使用をどのように使い分けているのかを実験法を用いて検討しています。実験法とは実験を用いてデータの収集・分析する方法のことです。
その結果、ジェンダー問題と女性が男性的な文末形式を使用すること(女性役割規範に反する言語使用基準)が結びついていることや、女性話者の「女ことば」と「男ことば」の使用基準が状況に応じて自動的に切り替わることが指摘されています。

有泉は「女ことば」「男ことば」の使用基準の切り替え、実験内容、女性話者が用いる文末表現に関する結果、男性話者が用いる文末表現に関する結果の順に論を展開しています。以下、この順に沿って簡単にまとめます。

日常生活におけることばの選択や判断の例に有泉はテレビを使っています。フィクションであるドラマの女性登場人物が「女ことば」を多用している場合と、ジェンダー問題についての文脈で「女ことば」が多用される場合、前者には特別な印象を抱くことはありませんが、後者には否定的な印象を持ちやすくなる、といったもので、このような言語使用の切り替えが日常、無意識に行われています。
ジェンダー役割規範に反する言語使用基準が「ジェンダー問題」と結びついているとすれば、「ジェンダー問題」が活性化されることにより、その後に行う判断で無意識のうちにジェンダー役割規範に反する言語使用基準が適用されやすくなると有泉は考え、これを検討するためにプライミング手法を実験に用いています。

プライミングとは、人がある情報に接することによって関連する概念が自動的に活性化される(思いつきやすくなる)ことで、この概念の活性化によって後に行う物事の判断や処理に影響を与えることをプライミング効果といいます。(Higgins, Rholes, & Jones, 1977;山本・外山・池上・遠藤・北村・宮本,2001)

実験では、参加者に実験目的を伏せた状態で、「ジェンダー問題」の活性化を操作するための先行課題と、プライミング効果を測定するための後続課題を実施しました。

先行課題では、参加者を無作為二つのグループに分け、一方(活性化ありのグループ)にはジェンダーに関する文章の読解問題、もう一方(活性化なしのグループ)にはジェンダーにまったく関係のない文章の読解問題を解答してもらい、その後両グループに同じ続投課題を行いました。続投課題では文末が空欄になっている会話文を男性形式、女性形式、中性形式の選択肢から選んで完成させるもので、ページごとに話者と話し相手の性別の組み合わせ(女性話者と女性相手、女性話者と男性相手、男性話者と男性相手、男性話者と女性相手の4組)会話の場面(「話者から話し始める」、「話し相手の質問に答える」、「話者が話している途中」、「話し相手が話している途中」の4種)が異なっています。

まず女性話者が用いる文末表現に関する結果ですが、活性化なし群では、すべての会話場面で女性話者に女性形式のほうが選択されていました。この結果パターンは話し相手の性別に関わらずみられ、一般的な会話表現の知識を問われる状況では、女性話者が女性形式を使用すると判断されやすいことが考察されています。
一方、活性化あり群では、女性話者に男性形式が選択される傾向がみられました。以上から「ジェンダー問題」の活性化によって、女性話者が用いる文末表現の使用基準が、無意識のうちに女性役割規範に沿ったものから反するものに切り替えられたことが分かりました。
このほか、「ジェンダー問題」が活性化によって、 女性参加者はジェンダー役割規範に反した言語使用規範を適用する方向に変化する傾向がみられましたが、男性参加者は活性化の有無に関わらずジェンダー役割規範に沿った言語使用規範を適用する傾向がありました。このことから、 ジェンダー問題と女性話者の言語使用基準の結びつきの認識には性差がある可能性も示されました。

また、「ジェンダー問題」の活性化によって文末表現の選択傾向に変化があったかどうかを、χ2検定によって統計的に分析した結果、「相手が話している途中」で話し相手が女性の場面のみをのぞくすべての組み合わせで「ジェンダー問題」の活性化の効果が有意であるという結果が出ました。
χ2検定(カイ二乗検定)とは、ある事象の観察や実験を行う際に、理論上の期待度数と、観察度数との食い違いの程度を明らかにするために行われる検定のことで、この場合には、ジェンダー問題を意識したことで出た差に意義があるかないかを客観的に判断するために使われていると考えられます。
最後に、男性話者の用いる文末表現の選択に関して、「ジェンダー問題」の活性化による変化を示す結果は得られませんでした。

以上のように、ジェンダー問題と女性役割規範に反する言語使用基準が結びついていることや、女性話者の「女ことば」と「男ことば」の使用基準が状況に応じて自動的に切り替わることを主張していますが、これは私の研究テーマから見ても非常に意義深いものです。「女ことば」「男ことば」とはジェンダーを意識しない限り存在しないものであり、それを意識した場合の文末表現の選択の男女差は特に興味深く、今後の研究にも役立てたいと思いました。

(最後にχ2検定について、こちらは論文内に計算方法の説明などがないので気になる方は
『カイ2乗検定』www.geisya.or.jp/~mwm48961/statistics/kai2.htm
の「簡単な例でイメージ作り(2)」と■要約■の2を参考にしてください。(独立性の検定についてです。)
分布表では自由度2のχ2を見てください。
こちらは『カイ2 乗分布表』www3.u-toyama.ac.jp/kkarato/2012/…/CHISQ-TABLE.pdfが詳細で分かりやすかったです。)

引用文献
YAHOO!知恵袋detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

参考文献
『カイ2乗検定』www.geisya.or.jp/~mwm48961/statistics/kai2.htm
『カイ2 乗分布表』www3.u-toyama.ac.jp/kkarato/2012/…/CHISQ-TABLE.pdf

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