”~かな、みたいな”と”~って感じ”の語用論的機能

こんにちは、夜ゼミ2年の東條です。提出ギリギリですみません…。追い込まれないとやる気が起きないところを直さなきゃいけないなと痛感しています。

今回は以下の論文について要約しました。

 

洞澤伸(2011「若者たちが使用する「ぼかし言葉」~かな、みたいなと~って感じ用論的機能」『岐阜大学地域科学部研究報告』第28pp.41-49

 

(1)<ミーティングに参加しなかった友達に対して>「本当は参加して欲しかったかな、みたいな

 

(2)<友人に誰かの愚痴を言っている時>「マジうざいって感じ、あいつ」

 

この論文では「ぼかし言葉」のうち、(1)(2)のような否定的な文脈で用いられている「~かな、みたいな」と「~って感じ」という2つの表現の語用論的機能の相違点が述べられています。「ぼかし言葉」とは、相手の感情を害したり、自分が嫌われたりして人間関係が損なわれないようにするために自分の感情をストレートに表現することを避け、相手に与えるインパクトを和らげる表現のことです。分析対象となる用例は、筆者が2006年~2010年の5年間にわたって、毎年、岐阜大学の12年生に対して行った、実際に使用したことのある「ぼかし言葉」の具体的な発話例をそれを使用する場面と共にあげてもらうというアンケート調査によって収集したものです。洞澤は「~かな、みたいな」、「~って感じ」それぞれについて分析したのち、結論として両者の語用論的機能の違いを明らかにしています。以下、両者の語用論的機能の共通点と相違点についてまとめていきます。

 

「~かな、みたいな」と「~って感じ」の語用論的機能の共通点

この2つの表現は、発話者が否定的な感情を抱く事象に対して一定の“距離”をおいて話しているものであると洞澤は述べています。この“距離”は「発話主体のメタ化」(辻1999a)という概念で次のように説明されています。発話者は聞き手と向かい合って話しながらも、対象の事象を第三者の発言として引用するような形で客観的に述べているという状態になります。そのため、発話者はその事象に対して“距離”をおくことになり、聞き手へのインパクトを和らげることができるのです。この「発話主体のメタ化」によって、発話によって作り出される発話者と聞き手の間に生じうる不和や衝突が緩衝されると筆者は主張しています。

 

「~かな、みたいな」と「~って感じ」の語用論的機能の相違点

《事象と聞き手の関係》

「~かな、みたいな」は、(1)の例からもわかるように、否定的な思いを事象に直接関与する本人に伝える表現であるといえます。そのため、冗談ぽく聞き手に注意を与える表現としても用いることができます。

 

一方、「~って感じ」は、(2)の例からもわかるように、否定的な思いを事象に直接関与しない第三者に伝える表現であるといえます。この表現における事象は第三者としての聞き手の関与度が低いため、疑問形で聞き手に共感を求める表現としても用いることができると筆者は述べています。

 

《緩衝機能の相違》

「~って感じ」の用例の中には、事象に聞き手本人が直接関与しているものも見つかりました。

 

(3)<失言をした友達に対し>「それはないって感じ

 

これを「~かな、みたいな」に書き替えてみると、2つの表現の相違が明らかになると筆者は述べています。

 

(3)’ <失言をした友達に対し>「それはないかな、みたいな

 

(3)(3)’を比べてみると、(3)よりも(3)’のほうが友達への非難の程度が軽いものであるといえます。このことから、洞澤は「~かな、みたいな」と「~って感じ」の緩衝機能には明確な違いがあると主張しています。事象に直接関与する本人に伝える表現である「~かな、みたいな」は緩衝機能が大きく、事象に直接関与しない第三者に伝える表現である「~って感じ」は緩衝機能が小さいという両者の違いを明らかにしています。

 

この論文の面白いところは、「~かな、みたいな」と「~って感じ」という似通った表現を、否定的な文脈で使われている場合のみに絞って、両者の相違点を明らかにしているところだと思います。聞き手の違いから緩衝機能の大小を論じている点がとてもわかりやすく、興味深かったです。しかし、一方で肯定的な文脈でこれら2つの表現が使われる場合はどのように変化するのだろうと疑問に思ったので、今後研究していければと思いました。

 

引用文献

辻大介(1999a)「『とか』弁のコミュニケーション心理」『第3 社会言語科学会研究大会予稿集』

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