語形成と音韻構造

こんばんは、昼ゼミ2年清水です。掲載が遅くなり申し訳ありません。バイト先のラーメン屋(ブラック企業)の店長がほぼ毎日朝から晩まで働いているのを見て、体を壊さないといいなと心配していた矢先に自分が風邪をひきました。不規則な生活習慣を改善し、一刻も早く風邪を治し春休みをエンジョイしたいと思います。

今回、私が紹介するのは、窪園晴夫(2010)「語形成と音韻構造-短縮語形成のメカニズム-」『国語研プロジェクトレビュー』No.3 pp.17-34で、以下その要約となります

この論文で、窪園は短縮語形成の出力条件について、従来の「短縮語は短いほど良い」という前提に基づく分析に対して問題点を提起している。さらに窪園は、外来語短縮(例:テレビジョン→テレビ)の形成過程を考察し、従来の研究では明らかにされなかった出力の長さの問題に対し、単語の分節という原理から答えを提示しており、この分析を基に単純語短縮過程と複合語短縮過程が音韻的には同じ形成過程として一般化できることも論じている。

従来の分析における外来語短縮の出力条件は、以下の3つが挙げられる。

ⅰ)最小性条件

a.1モーラ語は不適格

例)ストライキ→スト、*ス

b.1音節語(=1音節2モーラ語=重音節1つからなる語)は不適格

例)パンフレット→パンフ、*パン

ⅱ)最大性条件

5モーラ以上の語は不適格

例)イラストレーション→イラスト、*イラストレ ⇒4モーラと5モーラの間に境界線がある

ⅲ)韻律構造条件

LHという2音節構造は不適格 (L=軽音節、H=重音節)

例)ロケーション→ロケ(LL=軽音節の連続)、*ロケー(LH=軽音節+重音節)

これらの条件を示した上で、窪園が挙げた問題点は2つある。その1つ目は従来の研究において共通する、「短縮語は短いほど良い」という経済性の原理により短縮語形成が成されるという考えでは、3モーラ以上の短縮語が説明できないというものである。これはつまり、「テレビジョン」などの語において、なぜ「テレ」という最小の2モーラ短縮語(最小条件に基づく最小値)ではなく、「テレビ」という最小ではない3モーラ短縮語が選択されるのかということである。そして、2つ目は、4モーラ短縮形同様に5モーラ以上の短縮形があってもいいのに、なぜ許容されないのかという最大性条件に対する問題、つまりは、4モーラと5モーラの間に境界があるのかという問題である。

この問題点に対し、窪園は、分節説という新たな分析法を提示した。これは5モーラ以上の外来語は形態的に単純語であっても音韻的には複合語(疑似複合語)であり、分節原理(①音節を分断せずに、できるだけ同じ長さに分ける、②1により2等分に分節できない場合は、前半>後半とする)に基づき、ほぼ真ん中で二分されるという考えである。

例)メタボ|リック→メタボ  イラスト|レーション→イラスト

⇒偶数モーラの語は二等分される

テレビ|ジョン

⇒奇数モーラの語は分節原理2に従い3+2モーラに分割される

この5モーラ以上の外来語を疑似複合語として捉え、その語構造から短縮形を導く分析は、従来の経済性の原理を基盤としておらず、3、4モーラ短縮語の形成を説明できるだけでなく、単純語の短縮(例:スト(ライキ))を複合語の短縮(例:携帯(電話))と同じように分析できる。

さらに、4モーラと5モーラの間の境界に関して、短縮という語形成過程を「複合語構造を単純語構造に変換する」プロセスである見て、音韻的に5モーラ以上が複合語、4モーラ以下が単純語という結論を導き出した。これには、複合語短縮が4モーラを上限としていることや、複合語アクセントにおいて、5モーラ以上の複合語は規則的なアクセントを示すのに対し、4モーラ以下の複合語は、不規則なアクセントを示すことなどの根拠に挙げている。

この原理によれば単純語の短縮とされた現象と複合語の短縮された現象を統合・一般化できる。しかし、分節に基づく分析には少数だが例外があり、その説明が問題であるとしている。

以上が要約です。外来語短縮語の形成過程を分節の観点から新しい分析がなされていますが、外来語を音韻的に疑似的な複合語として前部と後部で二分するというのは、今まで「テレビジョン」や「イラストレーション」などの外来語を単純語としか見ていなかった私にとって、とても斬新で面白いなと思いました。ただ、全てが説明できているわけではないので、他の研究と比較し例外部分の説明を分節説と矛盾せずに説明できる方法があるかや他にもっと良い方法があるかなどを検討していければと思います。

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