「「ってゆうか」は単なる意味のない前置き表現か―意味の観点から―」

 こんにちは。昼ゼミ2年の宮澤です。私の住む県にも緊急事態宣言が発令され、アルバイト先の塾ではzoomを使いオンライン授業をしています。zoomだと過度に慎重になり、対面よりも授業がゆっくりになって進みません…。でも、良いことも!小学生男子は、対面だとふざけていたり、問題を中々解いてくれなかったりして困っていましたが、家だと彼らのお母さんが近くにいるおかげで真面目に授業を受けてくれて、対面よりもやりやすいです(笑)。母は強い!偉大です!

 さて、今回、私は

林千賀(2007)「「ってゆうか」は単なる意味のない前置き表現か―意味の観点から―」

『昭和女子大学大学院言語教育・コミュニケーション研究』第2巻、pp.37-49        を要約しました。

 筆者は、意味を持たない前置き表現と言われる「ってゆうか」に意味があると主張しています。この論文では、まず、「ってゆうか」における意味の有無について論じる先行研究を紹介し、次に、先行研究から「ってゆうか」には3種類あることを提示しています。最後に、3種類のうちの1つである前置き表現の「ってゆうか」が意味を持つことを実証します。以下、この流れに沿ってまとめていきます。

 筆者は、先行研究から、意味がある「ってゆうか」と意味がない「ってゆうか」に分かれていることを挙げています。意味がある方は、塩田(2003)とメイナード(2004)をまとめて、元々の「XていうかY」が持つ否定や言い換えの意味を持つと分かりました。一方で、意味がない方は、塩田(2003)が主張する、言い換える対象である前件Xの部分が消えたことにより、「ってゆうか」自体には意味が消えたという考えを紹介しています。

(注意)

・「っていうか」「ってゆうか」「つうか」「てか」は同義として扱う。

・この論文における「意味核」とは、「語句が固有に有する意味」のことをいう。「っていうか」の意味核は、元々使われていた「XというかY」が持つ意味である「前件Xというより、むしろ後件Y」である。

 次に、筆者は、メイナード(2004,2005)による、①前置き表現「ていうかY」、②後置き表現「Xていうか」、③単独で使用される「ていうか」の3種類の分類を提示しています。これらのうち、①前置き表現「ていうか」には、元々の「XていうかY」との区別のために、ディスコース・マーカー(談話標識)の機能を含むとしています。(ディスコース・マーカーとは、「論旨の転換を示す語句」のこと。)

 筆者は、メイナードの分類のうち、前置き表現の「ってゆうか」を取り上げ、それには意味核が全く残っていないとは言えないのではないかと主張しています。更に、先行研究の問題点として、省略された前件Xを復元していない点を挙げ、この論文では、前件Xが省略されている場合、省略部分の復元によって意味核が確認できる場合は、意味核があると判断します。

 ここで、例文の分析手順を示します。

①表層上のXが見当たる場合、あるいは、Xが復元可能な省略(深層上のX)の場合

 →「ていうか」の意味核(言い換えるための前置き表現「XというよりむしろYである」)があるとする。

②表層上にも深層上にもXが見当たらない場合

 →発話行為の談話標識(ディスコース・マーカー) とする。

③ディスコース・マーカーから、統語上、Xが認められなくても、文脈上、認めることが可能であれば意味核があると判断する。

  (12)a 「寝坊しちゃった。」

     b 「ていうか今日の試験どう?」梅澤(1999:80)

 (12)の「ていうか」は、分析手順②に当たり、相手(a)の話題を変えています。筆者は、話題を変えることは、相手の話題を否定しているともいえるため、否定の意味が全く含まれないとは言えないと考察しています(分析手順③)。しかし、筆者は、この例文は省略された前件を復元するには文脈(コンテクスト)が不十分であるため、意味核が残っていると主張するには弱いと考え、コンテクスト情報が十分にある(15)の例文を分析しました。

  (15)(韓国パブに行くかどうかについて仲間4人たちで話している。しかし、ブッサンはあまり韓国パブに興味を示す様子もなく、考え   

     ごとをしている。)

     アニ  :ブッサンも(ブッサンの肩をたたきながら)はやくVシネモードに着替えて5時集合な。

     ブッサン:つうか、バンビは?

          (皆、知らないと首を振ってこのシーンが終わる)

『木更津キャッツアイ―日本シリーズ』宮藤官九郎監督

 (15)の例文では、前件Xは、「つうか」の前の談話部分であり、内容としては韓国パブに行くかどうかの話題です。そして、後件Yは、「つうか」の後の部分であり、韓国パブの話題を「つうか」によって、新しい話題に変えています。つまり、この場合の「つうか」は、前件を否定して後件に言い換える「XというかY」と同じ意味を持ち、意味核があるといえます。このように談話全体をXとすることで、前置き表現にも意味核があると実証しました。筆者は、前置きのディスコース・マーカーとして作用している「つうか」は、前件Xを表現する明確な語が見当たらなくても、文脈上認められれば、意味核があると判断できるとまとめました。

 最後に、この論文では、ディスコース・マーカーの「ってゆうか」を、「前件の意味を緩和して後件で言い換える「XというかY」から派生した談話標識(ディスコース・マーカー)」と定義しています。

 先行研究では、短い会話の中で前件Xの語を探すという作業をしていましたが、この論文では、ドラマで言葉になっている部分つまり台詞だけでなく、その場の状況や話題にも目を向けています。実際の日常会話でも、私たちは語単位よりも文脈単位で大きく捉えて会話することの方が多いと思うので、言葉の使われ方の実情を見るのに適した研究方法だと思いました。そして、私は、「ってゆうか」は「それよりも(それよか)」と意味や使われ方が似ているのではないかと考えたので、両者の違いを調査してみたいと思いました。

参考文献

自由国民社(2019)『現代用語の基礎知識』

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です