接尾語「クナイ」の使用実態と拡大

こんばんは。昼ゼミ2年滝沢です。本来なら華の夏休みのはずですが部活以外のことに手を出しておりません。

8月初めに家庭内感染で味覚のない生活を送りました。良い経験でした。

以下の論文の要約をしました。

津村彩子(2019)「新しい接尾語「クナイ」の使用実態とその拡大について」『言語の研究』5号、pp.1-16頁、首都大学東京言語研究会

本論文では、「形容詞連体+ない」とは異なる文末表現「クナイ」について、使用状況、接続する語の範囲、接続する語の実態と原因を明らかにしている。調査はTwitterを利用し、語彙は2018年12月~2019年1月間『テレビ放送の語彙調査Ⅱ』にて度数の高い名詞130語、形容詞と形容動詞全てに絞っている。

(注意)

「形容動詞連用形+クナイ」が正しい形とする。

上昇イントネーションによる「~じゃない?」と言い換え出来る「同意要求」、下降イントネーションによる「~ではない」と言い換え出来る「否定」の二つの意味を持つ。

◎使用状況

・「クナイ」の否定用法がツイートに対するリプライ多く見られることから、「クナイ」の否定用法は、相手の言い方をオウム返しして否定することで、表現を柔らかくする効果がある。

 (例1)「いい子は早く寝なさい/いい子くないー」

・同意要求表現と比較して軽い印象になるため、断定的な表現を避ける一種のポライトネス表現となっている。相手の意見を否定する際、「無理だよ」というよりも「無理くない?」という方が婉曲的と言える。

◎接続する語の範囲、原因

・名詞では、「子供」といった「状態を表す名詞」、「いい~人」とった「性質を表す語+名詞」に多く接続していたことから、状態や性質を表す語彙の後に接続しやすい。「クナイ」が使用される時は親密な相手であることが多いため「皆さん」や「ご覧」などには使用されない。また「いつ」「どこ」など同意要求ではない疑いの分として使われる語にも接続しない。

・形容詞では、全て「形容詞基本形+クナイ」の形で接続されている。イ形容詞においても『基本形+クナイ』が浸透している。

 (例2)髪の毛薄いくない?

・形容動詞では、「~げ」「~がち」といった接尾語ついていない語以外は「クナイ」が接続している。しかし「~そう」は様態を表すため「クナイ」が接続している。

◎接続する語の実態

・否定の意味のみに特化した「クナイ」は「場合」「よろしい」「ひよわ」のみで、そのほとんどが同意要求を含んでいる。

・使用頻度の高い形容詞基本形や、ことわざ、慣用句などにも「クナイ」が接続し始めていることから「クナイ」の後続できる語の範囲は拡大している。

 (例3)EXでの爪回収も夢のまた夢くない????

・「接尾語+クナイ」の形は1ツイートもされていないこと、否定的意味が顕著にみられること、ことわざや慣用句にも接続するようになっていること、ほとんどのものが同意要求と否定をイントネーションで区別できることから、「クナイ」は「文末表現」の枠を超え、「接尾語」の性質を持ち始めている

本論文では15ツイート以上、それ以下、0ツイートの3つに分類してその語の浸透性を説いていましたが、数あるツイートのなかで15という数で浸透している根拠になるのか気になりました。

接尾語についての調査に興味が出てきているので、研究語彙の絞り方、分類してからの「クナイ」の特徴の考察など、とても参考になりました。

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