こんにちは!夜ゼミ2年の山本です。最近韓国ドラマに再ハマりしたおかげで、韓国旅行への気持ちの高まりが止まりません(笑)本当は高校の卒業旅行で友達と行く予定でしたが、まだ行けていません。時間経つの早いな~。。でも今は行けないので、大学の卒業旅行に期待しています(^^)さて、今回は以下の論文についてのレポートです。
三井はるみ(2014)「関西方言出自の共通語『~てほしい』の普及の影響」
『国立国語研究所 共同研究報告13-02』pp.153-164
この論文では、関西方言である「~てほしい」という表現が全国共通語として普及・定着したことについて、従来用いられていた類義表現である「~てもらいたい」の用法の変容という観点から考察を行っている。そのため、まずは先行研究としての三井(2007・2010)で明らかにされている要旨を以下に述べる。
- 1920年以前出生の男女を対象とした1979~1982年のGAJの調査では、方言としての「~てほしい」は明確に近畿地方中心に分布する語形し、「~てもらいたい」は沖縄県を除く全国で広く分布していることが分かっている。(国立国語研究所(2002)『方言文法全国地図 第5集』)
- (1)の30年後に行った、1939年以前出生の男女を対象としたGAJの調査では「~てほしい」は近畿地方を中心に東西へ広がった(西側:徳島市 東側:長野県松本市、東京都立川市)ことが分かっている。
- 2008年に実施した、若年層(20歳前後の大学生)が対象の全国調査では、現代の若年層の間で「~てほしい」が全国的に広がり、「~てもらいたい」は減少したことが分かっている。(回答者の内訳は「~てほしい」が142名(81.6%)、「~てもらいたい」が32名(18.4%)である。)
- 『日本語話し言葉コーパス』における使用状況の検索では、全体74例のうち、「~てほしい」56例(75.7%)、「~てもらいたい」19例(35.7%)であることが分かっている。
以上のことを踏まえ、筆者は「自分が人から恩恵を受けることを希望する」という意味を持つ「~てもらいたい」が、その構成要素である「~てもらう」を待遇的表現として使用する近畿や近年の東京・首都圏では使用が回避されたがゆえに、それに代わる「~てほしい」を使用するようになったという仮説を立てている。これを論証するため、以下のように「~てもらう」における用法全般の地域差を概観している。
①恩恵的な行為を受けることを述べる場合、「~てもらう」によって受益を明示することにどの程度積極的であるかは方言差がある。(受益明示の積極性)
②実際には恩恵を受ける行為ではないにも関わらず、待遇表現として語用論的に「~てもらう」を用いる程度には方言差がある。(待遇表現的使用)
①は、動作の受け手にとって恩恵性のある事態であっても、東北方言や九州方言などのように必ずしも「~てもらう」によって受益を明示しない方言もある(日高 2007)。一方で、近畿方言は受益の表出に積極的であり(日高 2007:65-70)、共通語あるいは東京・首都圏の言葉は中間的であると位置づけている。②については、次のような例を基に考察している。
(a) お荷物持たせてもらいます。(申し出)
(b) そこを左に曲がってもらって…(道教え)
(a)のように「(自分が相手のために相手の)荷物を持つ」、(b)のように「(相手が相手の行きたいところへ行くために)左に曲がる」ことは、話し手が恩恵を受けるとは考えにくい(沖 2009)にも関わらず「~てもらう」を用いて表現するのは、相手の行為によって恩恵を受けているかのように表出することが、一種の待遇表現として機能するためと考察している。このような「~てもらう」の待遇表現は、関西、および、近畿圏の影響の強い地域で積極的に使用されていることが明らかにされている(陣内 2003)。
以上の(1)~(4)での使用状況や①②から、筆者は「受益を要求する」意味を持つ「~てもらいたい」の使用が、その構成要素である「~てもらう」を待遇的表現として使用する近畿地方では使われなくなり、その代替表現として「~てほしい」が定着したのだと述べる。そして、次いで待遇表現の使用が増加傾向にある東京・首都圏を中心として「~ほしい」が受け入れられたと考察している。
この論文を読み、「~てほしい」が東京・首都圏を中心として積極的に使用されるようになったこと以上に、「~てもらいたい」が使用されなくなった過程の方に重点が置かれているように感じたので、「~てほしい」がどの世代にどの程度使用されているのかをより詳しく調査したデータなどを用いると、更に良いのかなと思った。また、元は関西方言であった言葉が共通語として、その地域から離れた場所でも広く使用されるようになった原因にはこのような意味の捉え方の変化に伴ったことがあることを知り、このような広まり方もあると視野に入れることで、方言が広く普及されるようになったことに焦点を当てている自分の研究に生かせそうだと思った。