役割語の先へ—役割語的表現への広がり—

こんばんは。昼ゼミ2年の田久保です。

この間ついに例の注射を打ってきました。しかしその後、副反応もほぼなく驚くほどピンピンしていたので、逆に不安です。

今回は次の論文を要約しました。

冨樫純一(2021)「役割語の先へ—役割語的表現への広がり—」『日本語学』第40巻第1号、pp.26-36(明治書院)

この論文では、アニメや漫画などのポップカルチャーやサブカルチャーにおける、人物などの属性を表す特定の表現を、「ツンデレ」属性表現などの具体例を挙げつつ役割語の定義に照らし合わせ分析し、さらには従来の役割語の定義に新たな要素を加えることを提案している。

役割語とは、特定の言葉づかい(語彙、言い回しなど)からその使用者の属性(年齢、性別、時代、性格など)が思い浮かぶ、あるいは特定の属性をみればその人物が使用しそうな言葉づかいが思い浮かぶような言葉遣いのことであり、特定の属性のイメージの共有化、一般化が前提となっている。具体例は、博士属性を表す「わし」、お嬢様属性を表す「てよ」「だわ」などである。

本論文では、まだイメージの一般化が見られない属性である①ツンデレ ②ボクっ娘 などに見られる表現をこの定義に照らし分析を行なっている。

1.ツンデレ

1)成瀬川なる「ち ちがうわよ ただそのっ… れ 練習しただけよ チョコ作りの」(赤松健『ラブひな』第七巻、講談社)

2)清少納言「の…則光が悪いんだからねッ!!」(かかし朝浩『暴れん坊清少納言』第二巻、ワニブックス)

以上のような例を典型的なツンデレのセリフの例としてあげ、このセリフに見られるつっかえや「〜なんだからね」と言った表現を、役割語として当てはまる点、当てはまらない点に以下のように分けた。

・当てはまる点…特定の言葉遣いと特定の属性が結びついている

・当てはまらない点…この表現が発話者の「感情」と結びついているため、使用する場面に制限が生まれる/この表現を見て必ずしもツンデレ属性を思い浮かべることができない

2.ボクっ娘

3)世良真純「やっぱボクが生まれ育った日本に住みたいって我がまま言って、東京に戻ってきたんだよ!」(青山剛昌『名探偵コナン』第七三巻、小学館)

ここでは、女性キャラが使う「ぼく」と言う表現を次のように分析している。

・当てはまる点…ボクっ娘属性がこの表現により成立している

・当てはまらない点…思い浮かぶキャラ像がはっきりしない/男性語である「ぼく」の表現のみを見たときに女性を思い浮かべることができない

また筆者は、ボクっ娘属性は「ぼく」という男性語を女性が使うというギャップの利用によってキャラの属性を表していると分析している。このような例は、幼児語を使いながらも難解な内容を話し、そのギャップによって「天才児キャラ」を描写する際にも見られる。これは役割語が持つ固定的な属性のイメージを利用した、新たな属性表現であるとしている。

よって筆者は、従来の役割語の定義にある「属性」と「言葉づかい」の2つの要素に、3つ目の要素として「発話内容」を加えることを提案している。

さら筆者は、固定化されたイメージの一般化という役割語の特徴から、「俺、この戦争が終わったら結婚するんだ」のような発話、いわゆる「フラグが立った」とされる表現も、(多少の拡大解釈を許せば)役割語として解釈できるのではないかとしている。

この論文にあった、「属性」「言葉づかい」の2つの要素だけだった役割語に「発話内容」の要素を入れると言う主張と、この主張を導くためのアプローチの方法がとても柔軟に感じ参考になりました。もし自分が役割語を調べるときには、この3つ目の要素についても考慮しようと思いました。

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