近畿周辺圏の打消し表現について

こんにちは。夜ゼミ二年の矢内明莉です。

先日バイトとバイトの間に、当日予約をして美容院に行ってきました!個人的に髪の毛が短い方が好きなのでルンルンで家に帰ったのですが、親に「あんた成人式その髪の長さじゃなんにもできないよ!」と言われてしまいました…。

今回私が紹介する論文は
岸江信介(2005)「近畿周辺圏にみられる方言の打消表現」『日本語学』(明治書院)24巻12号,p.32-43
です。

この論文では打消表現で使用されていた「ン」が「ヘン」へ変化していることを指摘しており、筆者はグロットグラム調査が行われた地域の結果を引用し、考察を行っている。

① 徳島県吉野川流域
東の徳島市から西の池田町:「イカン」
→「イケヘン」が西へと勢力を広げている
「イケヘン」は京都方言の「イカヘン」に対応した大阪方言と同形
=大阪方言の影響を大きく受けている

② 奈良県南部
大塔以南:「イカン」	西吉野周辺:「イケヘン」
大塔が紀伊山地にあり、孤立しているため「イカン」よりも新しい「イケヘン」の伝播がスムーズに進まない→「イカン」「イケヘン」の対立

③ 愛知県名古屋市から三重県伊勢市
「イカン」と「イカヘン」の分布の境界が曖昧
→既に「イカヘン」が定着しているが、「イカン」も衰退していない

この二つに意味上の棲み分けはないが、以下のような場合は何らかの基準で使い分けられていると考えられる。

a. どこにもイカント家におる。(〇)
b. どこにもイカヘント家におる。(×)

「ン」「ヘン」が下接する動詞では、a.bのような使い分けがなされている。
また、このような使い分けは「ヘン」を使用するほとんどの地域で見られることも分かった。
(例)①③の地域:言い切りの場合「イカン」
    京阪方言:言いきりの場合「イカヘン」

また、筆者は打消の過去の形式についても考察している。
「行かなかった」の「なかった」に相当する「ナンダ」が「ンカッタ」「ヘンカッタ」に変化する現象が西日本で見られる。

地域①:「イカナンダ」のほか、「イカザッタ」「イケヘナンダ」
「ザッタ」は「ナンダ」よりも先に生まれた表現であるため、打消の過去の形式は以下のような変化をしている。




「へナンダ」「ヘンカッタ」:エ段に接続=大阪方言から取り込まれたもの
                 ↓
これら以外の形式全てが大阪からの伝播によるものだとは言い切れない 

【理由】「イケヘンダ」「イカンダ」は「イケヘン」「イカン」+過去を表す「ダ」
この場合、伝播によるものではなく当地域で発生したものだと考えるのが自然

 このような変化は②③の地域でもみられる。以下がそれをまとめたものである。





「ヘン」が伝播して「イカナンダ」と接触することで、①で見られた「イケヘナンダ」が生まれた可能性も否めない。

 筆者は本文中で「イカンカッタ」が若年層を中心に勢力を広げていることを指摘しているが、「イカン」よりも新しい「イカヘン」に「カッタ」が接続した「イカヘンカッタ」ではなく、「イカンカッタ」が若い世代で広まった経緯についても触れるべきではないかと感じた。

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