共感覚表現の転用傾向について―嗅覚と聴覚/視覚を中心に―

 こんばんは、昼ゼミ2年の山下です。最近の気温はとても微妙な感じなので、エアコンをつけるか否かが難しいところです。

 今回は、貞光宮城(2005)「共感覚表現の転用傾向について―嗅覚と聴覚/視覚を中心に―」『認知言語学論考』第5巻、49-78(ひつじ書房)を要約しました。

 この論文では、ある感覚領域を表す語が別の感覚領域に転用される、共感覚比喩表現の転用傾向について、特に嗅覚概念の特性と位置づけについて見直し、接近可能性に基づく新たな五感概念の階層性を提案している。

・共感覚比喩表現の転用の方向性には一定の方向があるとする先行研究Ullmann(1951)、山梨(1988)、 Shen(1997)で提案された階層性では、嗅覚概念が中程に位置付けられていて、例えば(1)a, b のように、嗅覚概念が聴覚/視覚概念の共感覚として採用されにくい理由を説明できないと指摘している。

(1)a) *香しい色

    b) ?香しい音

  • 筆者の提案…Shen(1997)の接近可能性に基づく階層性「触覚>味覚>嗅覚>聴覚/視覚」を再考した新仮説「触覚>味覚>視覚>嗅覚/聴覚」
  • 提案の前提、根拠

・Shen(1997)で提案された、一般的認知制約(より接近可能性の高い概念からそうでない概念への写像はその逆の写像よりも好まれる)を前提

・Shen(1997)の仮定した接近可能性の認知的要因、①感覚器官と知覚器官の直接接触の有無、②ある感覚を知覚するための特別な器官の有無に加え、新たに③「刺激源の同定可能性(知覚者が刺激の源を特定可能か否か)」を仮定

→分析の結果、嗅覚と聴覚概念の知覚者にとっての接近可能性は低いことが示されたため、Shen(1997)の接近可能性の階層性を修正し、新提案に至った。

  • 筆者案の実証

①嗅覚-視覚間での転用

(2)a) *香しい明かり 

b) *臭い色        

(3)a) 明るい香り 

b) 澄んだ香り 

c) はっきりした匂い  

⇒・嗅覚から視覚への転用は容認されにくい

・視覚から嗅覚への転用は容認されやすい(色相概念は共感覚として機能しにくい)

②嗅覚-聴覚間での転用

(4)?香しい/*香ばしい/*くさい 音

(5) ?うるさい/*やかましい/?静かな におい

⇒・転用の容認性に優位な方向性を見出せない

③視覚-聴覚間での転用

(6)澄んだ/ぼやけた/はっきりした/明るい/暗い 音

(7)*うるさい/*やかましい/?静かな 光

⇒・視覚から聴覚への転用は容認されやすい

・聴覚から視覚への転用は容認されにくい

1~3の分析から、筆者案であれば嗅覚概念が聴覚/視覚概念の共感覚として採用されにくい理由も説明可能であるとしている。

 この論文では、嗅覚概念をより接近可能性の低い、抽象性の高い概念として位置づけることで、従来の研究では説明が難しかった表現についての説明を可能にしている点が興味深いです。また、視覚概念からの転用で、色相概念は用いられにくいなどの容認度の差について、より最近の具体例も含めて検証してみたいです。また、料理の味を伝えたり、芸術作品を評価したりするときには、転用の方向を越えた共感覚表現が多くみられるように感じるので、そういったものも含めて調べていきたいです。

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