関西方言のヤンナとヨナについて

こんにちは。夜ゼミ2年の須藤涼子です。春休みを目前に控えて浮かれたいところですが、華の女子大生生活もいよいよ折り返し地点に突入と考えると少しセンチメンタルですね。さて、今日は次の論文のレポートをしたいと思います。

松丸真大(2007) 「関西方言のヤンナとヨナ」 『阪大日本語研究』19

私は後期に関西方言の終助詞「や」と「な」について研究したのですが、この研究を進めるにあたって研究題材を標準語の「ヨネ」と関西方言の「ヤンナ」に広げてみては、とのアドバイスを先生から頂いたので、今回はこの論文を読みました。この論文では、標準語のヨネに相当して用いられる、関西方言のヤンナ・ヨナの意味と用法をまとめています。

まず用法の面では、原則としてヤンナ・ヨナは平叙文とのみ共起し、ヤンナのほうが共起できる品詞や活用型の幅が広く、たとえば次のように、ヨナは名詞に後接すると不自然が生じます。

(1)あそこの制服って学ラン{ヤンナ/*ヨナ}?

また、ヨナは話し手が体験したエピソードや情報を聞き手に伝える場合に用いられる、情報提示の用法をもちません。次のようにヤンナを用いることで、話し手は発話のターンを握ったまま会話を続けることが可能になります。

(2)昨日、ふらっと昔住んでたアパートの近くに行ってみてん{ヤンナー/*ヨナー}。そしたら、近所の人にばったり会ってねー…

これは聞き手からの応答を求めているのではなく、これから話題としてとりあげる情報が、談話の場で共有されているかどうかを確認しているのです。一方、ヤンナは命令表現や独話表現の場面で用いにくくなります。

(3) 遅れるんやったら、はよ連絡せー{ヨナー/*ヤンナー}。

(4) どうしてもそうなる{ヤンナー/ヨナー}。

(5) 気がついたら、もう12月なん{*ヤンナー/ヨナー}。

「命令+ヨナ」という文が誰に対する命令かという点を考えてみると、標準語の「動詞テ形+ヨネ」の場合は聞き手に対する命令であるのに対して、関西方言のヨナの場合は聞き手以外の第三者への命令になり、「はよ連絡せーよ」という第三者への命令を「(ヨ)ナー」という文末詞で聞き手と共有しています。独話表現ではヨナは常に適格ですが、ヤンナは不適格になる場合があります。(4)ではヤンナは適格ですが、(5)では、ヨナを用いた場合は独り言として解釈することができるが、聞き手を目の前にしてヤンナを用いた場合はどうしても聞き手に確認をとるという意味になってしまい、独話表現としては不適格です。

最後に松丸は、これらのヤンナ・ヨナの用法の面から、意味の面を次のようにまとめています。

ヤンナ:話し手の中で既に定着している知識・判断を提示し、聞き手の反応を要求する。

ヨナ:話し手が推論・判断した事柄について、聞き手の判断との一致をはかる。あるいは、既に共有している事柄について、当然のこととして提示する。

この論文では、情報提示の場合のヤンナのような、心理的な理由からのヤンナ・ヨナの使い分けがあるのが面白かったです。しかしヤンナ・ヨナについては研究題材がまだ十分なものではなく、この論文でもなぜ名詞に後接出来ないのかという詳しい理由については言及されていなかったので、今後は根気よく関連論文を探して関西方言の研究を進めていきたいです。

それでは皆さん良い春休みを。

参考文献

・松丸真大(2007) 「関西方言のヤンナとヨナ」 『阪大日本語研究』19