こんばんは。2年昼ゼミの伊藤です。
趙 海域(2019)「複合助詞「について」「に関して」「に対して」の連帯用法について」『明星大学研究紀要-人文学部』第55号
【概要】
この論文では、「について」「に関して」「に対して」の連用的用法「についての」「に関しての」「に関する」「に対しての」「に対する」の五形式を対象に、現代日本語のコーパスから抽出した例を基に、量的に分析し、この五形式の違いを考察している。
(1)学割というのは、学生に対しての(➡に対する)割引のことである。
(2)朝食でとるべき栄養バランスに関しての(➡に関する)問題点は食品メーカーにとって大事な
ことである。
例(1)、例(2)のように、日本語母語話者の「に対しての」を「に対する」、「に関しての」を「に関する」に置き換えたほうがいいという判断からペアになる両者に違いがあることがわかる。両者には文体差を越えた違いがあるのではないかと推察される。
【考察】
表1には、本研究の分析対象となる五つの形式のサブコーパス別の粗頻度を示している。連体形「に関す」「に対する」が多く使われているのに対し、「に対しての」「に関しての」のテノ系の用例数が少ないのが対照的である。
全体的な傾向としては、「に関する」「に対する」の出現頻度が高く、「についての」が中間で、「に対しての」「に関しての」の出現頻度が非常に低いことがわかる。サブコーパスにおける出現傾向をまとめると、表2になる。「に対して」「に関して」の出現頻度が非常に低く、はっきりして傾向がみられないため、表2には示していない。
「に関する」「に対する」「についての」は法律、白書、国会会議録のような硬い文体、公的な文章で使われやすい。
「に対する」は白書で出現頻度が最も高いのは、白書の内容性質からみて、他との比較、何か問題に対処する内容が多いことによると考えられる。
「に関する」「に対する」「についての」は、ブログ、知恵袋、韻文で出現頻度が低い。
「について」「に関する」「に関しての」「に対する」「に対しての」の後続名詞の特徴を見るため、各形式のランダムに抽出された500例の後続名詞N2を対象に、相互比較した。以下本稿では、「に関するN」「に関してのN」に着目してこの後続名詞Nを比較し、形式に接続する独自の後続名詞の特徴を分析していく。
表3は、「に関する」と「に関しての」の後続名詞Nのそれぞれ特徴的な語を示すものである。
「に関する」は「法律、措置、規定、基準、協定、条例、条約、登記」などの決まりや規定を表すもの、「研究、調査、研究開発、検討会」などの知的行為を表す語が後続される傾向にある。「に関しての」は「お願い、注意、考え方、不安、コメント、講話」などの、特定の相手、少人数に対する働きかけのような私的な要素が強い語が後続されやすい。
【感想】
私は、「について」「に関して」「に対して」の違いについて今まで着目したことがありませんでした。日本語を知れば知るほど、外国の方が日本語は難しいという理由がわかる気がしてきます。今回扱った言葉に限らず、今度このような言葉に着目しながら日本語を使うと、また違った日本語の面白さを感じられるのではないかと思いました。
「についての」は完全に落ち着いた使い方となるかもしれませんね。
「に関しての」と「に対しての」は現在それほど汎用していませんが、言葉の変遷を経ての将来は違っていく可能性があると思います。