ポライトネスから見る若者ことばの機能―龍谷大学キャンパス語の分析を通して―

 こんにちは。夜ゼミ6グループの成田みどりです。春休み目前ですね。私の春休みの目標は、朝型生活です。4月には立派な朝型人間に!…この課題を夜中にやっている時点で、実現するか怪しいですが。皆さんも充実した春休みをお過ごしください。

 今回は、私が「る」による動詞化を調べる中で見つけた、若者ことばについての論文をレポートします。

 村田和代(2005) 「ポライトネスから見る若者ことばの機能―龍谷大学キャンパス語の分析を通して―」 『龍谷大学国際センター研究年報』 第14号、pp.25-37、龍谷大学

 この論文では、「フラ語」「コピる」といった若者ことばについて、収集した語の分類と、ポライトネスの観点からの分析を行っています。「若者ことば(若者語)」は、「中学生から三〇歳前後の男女が、仲間内で、会話促進・娯楽・連帯・イメージ・伝達・隠蔽・緩衝・浄化などのために使う、規範からの自由と遊びを特徴に持つ特有の語や言い回しである。」と米川(1996)で定義されています。この「若者ことば」の下位分類に、大学生がキャンパスで使用する学校に関する語である「キャンパスことば」、それより広い概念で学生が使用する語を指す「学生語」などがあります。

 筆者は、若者ことばに関する先行研究として米川(1996・1998)などを、ポライトネスに関する研究としては宇佐美(2001)や吉岡(2004)などを挙げ、これらを評価した上で、収集したキャンパスことばをポライトネスの観点から分析し、キャンパスことばはポジティブ・ポライトネスであると述べています。

 筆者はまず、龍谷大学の学生100人から収集した「龍谷大学キャンパス語」116語を、米川(1996)や中東(2002)を参考に2種類の分類法で分類しました。

A 造語法による分類

A-1 省略(59語)

(1)フラ語(フランス語) 追いコン(追い出しコンパ)

A-2 合成(21語)

(2)おな中(同じ中学出身者)

A-3 名詞の動詞化(9語)

(3)コピる(コピーをとる)

A-4 英語を取り入れた造語(9語)

(4)だぶる(留年する)

A-5 語呂合わせ(4語)

(5)シャカシャカ(社会学部社会学科)

A-6 イメージからの語(8語)

(6) 祇園精舎(深草学舎顕真館(法要などが行われる建物))

A-7 元の意味とは異なる意味で用いられる語(11語)

(7)エース(授業にほとんど出席しない人)

B 表現対象による分類

B-1 龍谷大学に直接関係する語(76語)(米川(1996)の「キャンパスことば」)

(8)祇園精舎 龍大

B-2 日常生活等に関する語(42語)(米川(1996)の「学生語」)

(9)コピる 飲み

 筆者はこれらの「龍谷大学キャンパス語」の特徴にとして、以下の点を指摘します。

・話し手と聞き手の共通の既存知識の有する必要がある。

・省略が多い。

・ユーモアが見られる。

・マイナスイメージの語(概念)をプラスイメージの語で表現する。

(10)「前期エースだったから、後期は出た方がいいんじゃない?」

 (10)のでは、「エース」というキャンパス語は、「前期授業休んでばかりだったから」という発話内容を和らげ、ユーモラスにする働きがあると説明します。

 このことから、キャンパス語の機能は、会話する相手との円滑な対人関係を構築し維持する機能があると述べています。

 ゼミ生にはご存知の方が多いと思いますが、ここで、対人配慮に関わるBrown and Levinson(1987)のポライトネス理論について簡単に触れておきます。ポライトネス理論では、人は対人関係上の欲求、フェイスを持つと考えます。これには、相手に認められたい、受け入れてほしいという欲求のポジティブ・フェイスと、相手に傷つけられたくないという欲求のネガティブ・フェイスがあります。ポライトネスとは、相手のフェイスを脅かす行為であるFTA(Face Threatening Act)を回避する行動を指します。この時、相手のポジティブ・フェイスに配慮した行動をポジティブ・ポライトネス、相手のネガティブ・フェイスに配慮した行動をネガティブ・ポライトネスと呼びます。

 ポライトネスの先行研究には、宇佐美(2001)、Usami(2002)や吉岡(2004)があります。宇佐美(2001)、Usami(2002)は、初対面同士の72の会話の分析から、若い層を中心に気楽で対等な人間関係を志向したポジティブ・ポライトネスの比重が増しつつあることを指摘しています。吉岡(2004)は、10~60代の594名を対象としたコミュニケーション意識の調査を行い、「楽しく話すこと」を重視する意識は若い世代で高いと指摘しています。

 筆者は、これらの指摘を支持した上で、キャンパス語を含む若者ことばをポライトネスの観点から分析し、キャンパス語を含む若者ことばにみられる、親しみを表す、会話を楽しくする、聞き手と連帯感を分かち合う、言いにくいことを言う際、相手を傷付けないようにするといった機能は、すべてポジティブ・ポライトネスであると結論付けます。

 私は今まで、「コピる」など「る」による動詞化だけを見てきたので、キャンパス語にあった他の造語法はとても興味深かったです。

 分類については、特にAの分類は、7つの違いが分かりにくいと感じました。米川(1996)では既存の語と無関係な新語と既存の語を利用した新語の2種類に分け、それを細分類していたので、そのような大きな分類をまず示した方が良いと考えます。

 ポジティブ・ポライトネス・ストラテジーには「内輪である標しを用いる」というものがあり、これが若者集団の言葉である若者ことばそのものを表します。そのため、若者ことばがポジティブ・ポライトネスであることはその通りですが、あまりオリジナリティーのある主張とは言えないと考えます。しかし、(10)はキャンパス語が遊びの要素を持つ言葉として、意味内容を軽くすることを表す面白い例文だと思いました。

<参考・引用文献一覧>

宇佐美まゆみ(2001)「「ディスコース・ポライトネス」という観点から見た敬語使用の機能―敬語使用の新しい捉え方がポライトネスの談話理論に示唆すること―」」『語学研究論集』6 東京外国語大学語学研究所 pp.1-29

中東安恵(2002)『現代キャンパスことば辞典―岡山大学編』 吉備人出版

吉岡康夫(2004)「コミュニケーション意識と敬語行動にみるポライトネスの地域差・世代差―首都圏と大阪のネイティブ話者比較」『社会言語科学』7(1)  pp.92-104 社会言語科学会

米川明彦(1996)『現代若者ことば考』 丸善

Brown,P.,and Levinson,S.1987.Politeness:SomeUniversals in Language Usage.Canbridge:Cambridge U .P.

Usami,M.2002.Discourse Politeness in Japanese Conversation:Some Implications for a Universal Theory of Politeness.Tokyo:Hituji syobo.