日本語の「主題」をめぐる基礎論

こんにちは。夜ゼミ2グループ二年の宮澤です。テストもようやく終わり、早いものでもう年度が終わるのかと思うと、時の流れのはやさに焦ります。そして、締切も近いのかと、さらに焦りました。

今回、私は、以下の論文をレポートします。

堀川智也(2010)「日本語の『主題』をめぐる基礎論」『大阪大学世界言語研究センター論集』第4号、pp.103-117

後期の個人発表の際に、主題の定義について質問され、そこを解決しなければ今後の研究が進まないと思い、今回この論文を選ぶことにしました。日本語の主題・主語をめぐる議論は、ハとガの使い分けとからめながら行われてきました。この論文では、従来、暗黙のうちに、ハは主題または対比のいずれかを表わす助詞であり、ガは主語を表わす助詞ということを前提としているが、この前提が確かなのかを、主にハをめぐって分析したうえで、「主題」とは談話上の概念なのか分析している。

ハの用法が「題目」または「対比」に限られるなら、それは、二者択一的、相互排除的に両者の関係をとらえる見方にたつことになるとしている。だが、題目提示の機能を失わず、対比の機能も併せもつことは可能であり、両者は相互排他的ではなく、同じハの中に共存可能な意味効果であるという分析を提案している。

「雪は白い」や「地球は丸い」といった、情態形容詞(属性形容詞)の文に使われるハは、題目提示と考えられやすい。このハは、普通「対比」の色は全く出ない。しかし、デ格やカラ格項を題目化する場合は、「デハ」や「カラハ」のような形にしなければならず、また、強力な対比文脈がなければならない。このような格助詞を残した「格助詞+ハ」の形は題目提示の典型とはいえず、このような場合のハに対比の色が出やすいと筆者は分析している。

一方、対比だと考えられるハの典型、文脈と関係なく一文で対比の色を感じさせるハは、副詞句につくハである。このハは、対比を色濃く感じ、題目語とはいいにくい。また、名詞句にデ・ト・カラ・マデなどの格助詞にハがついた場合も、ほとんど対比の色が出る。

以上のことから、筆者は、ハの中で対比を色濃く感じる対比らしい対比という用法とは、題目提示用法のハからは最も遠い位置にあると分析している。

しかしながら、筆者は、そもそも、対比と題目提示の両者を同じレベルで判断するのは、妥当ではないと述べている。対比かどうかは、当該の文で語られる事態と他の文で語られる事態との関係で決まり、題目提示かどうかは、あくまで一文中においてハの前後において表現上の立場が異なる二者を結びつけているかどうかで決まるのであり、同じ次元で判断すべきではないという観点からである。

それぞれの次元で判断するのであり、二者択一的なものでないのだとすれば、対比でも題目提示でもないハは理論的に可能になるとしている。このハが存在することから、筆者は、「対比」や「題目提示」という機能は、ハという助詞の本質ではなく、結果としてその表現効果になっただけだとし、ハの本質は、一文を二項に分離する機能だと主張している。

最後に、「主題」についてだが、筆者は「文内主題」と「談話・テクスト的主題」どちらの存在も認めたうえで、談話上の概念とするのは本質ではなく、あくまでも一文中の特定の成分を指す用語であるという立場をとっている。その根拠となるのは、題目語は、既知項目の場合が多いが、それは「PはQ」という表現が前提項目になりやすいだけで、そうでない場合も確かに存在し、また、ハによって分離された一文の第一部分が「主題」になりうるのであり、一文内に「主題」が想定される必要があるからだとしている。

今回の論文で、ハとガの使い分け、意味について今一度再確認でき、また、主題とはなんなのか理解を深めることができたので、自分が本来研究したい助詞の省略について参考になった。