終助詞「よ」の機能

こんにちは。夜ゼミ3年の阿部千尋です。先週成人式を迎えられた2年生のみなさんおめでとうございます!また今夜も雪が降るとのことですが、風邪をひかないように気をつけましょう!

さて、本題です。私は、接続助詞「けど」の終助詞化について調査を進めておりますが、今回は少し視点を変えて、「けど」と共起する終助詞「よ」について、曺(2000)『終助詞「よ」の機能』を要約しました。

曺(2000)は、終助詞「よ」の機能を明らかにするために、文レベルと談話レベルにおいて考察を行うものです。終助詞「よ」は、しばしば終助詞「ね」と対比されながら考察されるものが多いですが、その大半は文レベルのもので談話レベルでの考察はなく、また、必ずしも「ね」と同じ観点で対比されるものではないと指摘します。そこで、先行研究の問題点を明らかにしながら文レベルでの終助詞「よ」の本質的機能を見直し、談話レベルでの考察へと進みます。

【先行研究の問題点検討】

大曽(1986)

話し手と聞き手の「情報や判断の不一致」を前提に以下の3つの用法を挙げる

①話し手が相手は明らかに自分と違う判断を下していると知って、それに反論する場合

②聞き手が当然知っているはずなのに忘れているようなことを話し手が指摘し、思い出させるような場合

③聞き手が気がついていないこと、知らないことを話し手が知らせる価値があると判断し、伝える場合

しかし、①~③では以下の(1)について説明がつきません。

(1)A:今夜一杯やりませんか

B:a.いいですね。私もそう思っていました。

b.いいですよ。私もそう思っていました。

(1)は「私もそう思っていました」という発話から察するに、BもAと同様な考えをもっていると考えられ、「情報や判断の不一致」には適していません。これに対し、白川(1992,1993)では終助詞「よ」の機能を「その発話が確実に聞き手の耳に入るように聞き手の注意を喚起する」とし、話し手の伝達態度に関連付けて捉えました。曺(2000)は、白川(1992,1993)の考え方を取り入れ、終助詞「よ」の機能を「話し手の聞き手への呼びかけ」と捉えて論じています。

【文レベルにおける終助詞「よ」の意味・機能】

終助詞「よ」=本質的な意味(話し手の聞き手への呼びかけ)+表現効果(念押し・主張etc)

終助詞「よ」の本質的な機能は<聞き手><述べる事柄>に関わりなく、話し手の発話態度を主に表わすものであって、「よ」が無いことで発話意図が変化したり、発話が成り立たないということはありません。発話状況によって様々な表現効果が表れるのです。

(2)(友達に無理なことを頼まれて)「僕にそんなことできるかよ。」

(2)のような反問を表わす場合にも「よ」は用いられますが、不可欠な要素ではありません。しかし、終助詞「ね」の場合は、相手の情報や知識などが想定されるため、「ね」がなくなると反問として機能しなくなり、話し手の表現意図が変わってしまうことがあります。終助詞「よ」は、その有無によりニュアンスの差はありますが、文の意味内容に変化はありません。

(3)(落し物をしたことに気づいていない主婦に後ろから声をかける)「もしもし、何かものを落とされましたよ。

しかし、(3)の場合「よ」は不可欠な要素となります。これは、会話の冒頭部の発話であることがポイントになります。これから会話が始まるというところでいきなり話し手の判断や情報を述べることはできないということです。ゆえに、終助詞「よ」が発話においてどのような意味機能をもつか、談話レベルでの考察が必要になります。

【談話における終助詞「よ」の機能】

①会話促進

ⅰ)誘導機能

(4)今晩わ。そうだ、高倉さんとこ毎日でしたよね。どうです、ここらでサンケイ?新聞なんてどこでも同じですよ。

ⅱ)予告機能

(5)あそこ、一人じゃ絶対行けませんよ。遠いし、道曲がりくねるし、夜まで着かないですよ。

②ポライトネス

(6)無理言わないでくださいよ。

会話促進とは、聞き手の注意を向けさせるための機能であり、誘導機能と予告機能に分かれます。(4)は、あまり乗り気でない聞き手に自分の話を聞いてもらうための誘導として「よ」を用いています。(5)のような「よ」は、聞き手の知らない情報をもちこむ発話、特に前後で倒置が起こる際に用いられます。その機能は話し手の提示する情報に理由や保証の発話を続けることを予告するものです。(6)のポライトネスの例は、対人関係の調節として用いられるものです。言い切ってしまうと断定となるところ、「よ」を付けることで懇願を表しています。

【終助詞「よ」の機能】

以上をまとめると、文レベルにおいて終助詞「よ」の本質は「話し手の聞き手への呼びかけ」にあり、二次的に念押し・主張・強調・反問などの表現効果を生じるものであります。談話レベルにおいては、聞き手に注意喚起しながら会話を促進する機能として「誘導機能」「予告機能」といった談話形成のストラテジーと、「ポライトネス機能」といった対人関係のストラテジーがあるといえます。

長くなってしまい、申し訳ありません。終助詞「よ」と「ね」は対比して捉えられていますが、対比するだけでなく一つ一つを見ていくことでわかることもあるのですね。曺(2000)は、「けど」の意味が共起する語の影響を受けているものであるか、「けど」自体が有する意味かを見ていくうえで役に立てばよいなと思います。

参考文献

曺 再京 2000.「終助詞「よ」の機能」言語科学論集4 pp.1-12