広告の文末表現について

こんにちは。昼ゼミ2年の榎本です。中学・高校時代の吹奏楽部の合言葉は「NO MUSIC,NO LIFE」でした。…このブログのタイトルに、とても既視感をおぼえます(笑)

さて、私は大学で「広告研究会」というサークルの会長を務めているのですが、それに関連して今回は嶺田明美氏・長澤輝世氏の『広告の表現について(1)-テレビコマーシャルの表現形式と文末表現-』(學苑 862, 13-23, 2012-08-01  昭和女子大学)という論文を要約しました。

この論文では、テレビCMのことばの特徴は

(1)ニュース・告知重視形式、データ重視形式、効用・利用重視形式のような、やや一方的に商品の情報を伝え、商品の良さをアピールするもの

(2)警告重視形式、依頼・呼びかけ重視形式、問いかけ重視形式、情緒重視形式のような、画面越しではあるが視聴者とのコミュニケーションを図り、企業や商品に興味を持たせようとするもの

(3)語呂重視形式や商品名重視形式のような、ことばの配列を工夫して面白みを与えることでイメージアップを図ろうとするもの

に分けられると述べています。以下、わかりやすくまとめていきます。

筆者は宇佐美(1995)と村田(2004)を参考に、広告の文末表現を「敬体」(文末が「です」「ます」)、「常体」(文末が「だ」「である」)、「体言止め」「中途終了型」(述語が省略されている)の四つに分類しました。そして、①ニュース・告知②データ③警告④依頼・呼びかけ⑤問いかけ⑥情緒⑦効用・利益⑧語呂⑨商品名という九つの広告の形式ごとにそれぞれの文末表現が使用されている数を調査しました。

結果として、全体を通して体言止めが約49%と大半を占めていることがデータとして明らかになりました。村田(2004)は、「体言止めは文にするよりも短く終えることができ、また、文末を常体にするか丁寧体にするかの解釈を視聴者に委ねることができる」と述べています。このことから、筆者は様々な年代や性別をターゲットとするテレビCMに効果的な文末表現であると考えています。⑨商品名重視形式は、商品名を繰り返し、その商品名で文が終わることが多いため、体言止めが多く使用されています。「名門ダテーラ農園の豆を2倍使用」「ほろ甘い。ほろうまい。サントリーほろよい。」といったように(1)や(3)の特徴が顕著にあらわれた文末表現であるとしています。

敬体常体の1/3以下であるというデータも明らかになりました。滝浦(2008)は「敬語は〈距離〉の表現である」と述べています。敬語を無くすことで視聴者は企業との間の距離が縮まり、親密さを感じることができるということを主張しています。このことから、テレビCMでは丁寧さよりも視聴者との距離を縮め、近しい存在に感じてもらうことが重要であるとしています。しかし、④依頼・呼びかけ重視形式と⑤問いかけ重視形式では、常体が大部分を占めていながらも敬体の数が他の形式に比べて多いという結果となりました。これに対し、筆者は「依頼」は視聴者との距離を縮めることよりも視聴者に依頼することに重点を置いているため、弱い立場である企業側が強い立場である視聴者側に敬体を使用することは自然なことであると述べています。(例:「その走りを実感してください。」)

「呼びかけ」は終助詞の「よ」「ね」を用いて会話のように相手(視聴者)を意識した親愛の表現をするが、その際馴れ馴れしくならないよう丁寧系に接続されるとしています。(例:「深みにハマりましたね。」

また、「呼びかけ」の意味が強くなると視聴者との距離を縮めることに重点が置かれるため、敬体よりも常体や中途終了型が用いられるようになると述べています。(例:「毎日の歩くを活かせ!」「そうめんであったまろ。」)

⑤問いかけ重視形式も敬体の割合がほかよりも高くなっています。問いかけること自体が主眼ではなく、その後の商品を勧めるきっかけが問いであるため、視聴者との距離を保って配慮しているのではと筆者は考えています。(例:「英語、好きですか?→好きなことをライフワークにしよう。」)しかし、自問する形のコピーでは常体が用いられます。(例:「自然はなぜ、この乳酸菌に特別な力を与えたのだろう→リスクと戦う乳酸菌」)

これら全般が、(2)の特徴をあらわした文末表現であるとしています。

以上、文末の表現から情報を一方的に伝える形式は体言止めで効率よく伝え呼びかけや問いかけにより視聴者を意識した形式は常体で距離を縮めつつ、動詞や形容詞を使って文脈をきちんと伝える傾向にあると筆者はまとめています。

身近な広告が実は文末表現によって視聴者の購買意欲を操作していたことが分かり、とても新鮮でした。今回は常体が占める中の一部の敬体という形で論じられていましたが、依頼や問いかけでの敬体と常体の違いを別々に考察することで、より深く違いを研究できるのではないかと考えました。また、村田(2004)の先行研究にあったように登場人物が大人で視聴者の年齢層も高い場合、丁寧な話体が基本であると考えられるため、対象とする年齢層ごとにCMを絞って研究する必要もあったように感じられました。

【参考文献】

宇佐美まゆみ(1995)「談話レベルから見た敬語使用-スピーチレベルシフトの生起の条件と機能-」『学苑』(662)、pp.(27)-(42)昭和女子大学近代文化研究所

滝浦真人(2008) 『ポライトネス入門』研究社

村田和代(2004)「テレビコマーシャルの好感度-世代別言語ストラテジーの視点から-」三宅和子・岡本能里子・佐藤彰 編著『メディアことば(1)特集「マス」メディアのディスコース』ひつじ書房

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