連体修飾節の形容詞的用法と他動性

こんにちは、夜ゼミ2年の石井です。
先日は夜ゼミの新年会楽しかったですね。あの場で僕のキャラがおかしいことになっていましたが、実際は違いますからね!

さて、今回僕が紹介する論文は蔡梅花(2013)「連体修飾節の形容詞的用法と他動性」『日本アジア研究』第10号です。
この論文では、形容詞的用法になりやすい動詞の特徴を、その動詞の他動性という観点からの説明を試みています。
まず、動詞が「タ」形と「テイル」形は日本語のアスペクトの基本形式であることを挙げています。ですが、連体修飾節ではアスペクトを表さない場合があり、この時の用法を形容詞的用法と呼んでいます。通常「タ」形は「完了」のアスペクト、「テイル」形は「継続」のアスペクトを表すが、以下のような(1)、(2)の例ではアスペクトを表さないと説明しています。

  (1)割れた皿。
  (2)割れている皿。

このような形容詞的用法はすべての動詞に起こる現象ではないことに注目し、その違いと特徴について考察しています。

先行研究は寺村(1984)、高橋(2003)、森田(2002)を紹介しています。寺村(1984)からは、主格が修飾部に現れるか、非修飾名詞に現れるかが形容詞的用法になるかどうかと関係があるのではないかと考え、問題点として取り上げています。
高橋(2003)では、動詞が述語として用いられなくなるという動詞の意味の面からアスペクトを表さない場合を論じています。
森田(2002)は、連体修飾節に使われた動詞がその本来の動作性を失い、非修飾名詞の属性になる場合に形容詞的用法になり、このとき「タ」形と「テイル」形は同じ意味を表しているということを説明しています。そして、森田は話者の認識の有り様と視点で連体修飾節の「タ」の特徴を分析しています。
以上の三本の先行研究から、形容詞的用法の問題について動詞がアスペクトを失うとき、また失いやすい動詞はどういうものかが問題であること指摘し、先行研究では統一的な視点からの説明がないため、蔡は他動性という観点からの説明をしています。

蔡は、コーパスデータ使用して、形容詞的用法の用例を収集し分析しています。その際、形容詞的用法と認定するための基準を以下の4項目を作っています。
 ① 連体修飾節の「タ」形7が「過去」の意味も「完了」の意味も表さない。
 ② 連体修飾節の「テイル」形が継続の意味を表さない。
 ③ 「タ」形と「テイル」形が交替可能な場合、意味の違いが生じない。
 ④ 「タ」形と「テイル」形が交替不可能な場合でも、①②の項目に当てはまれば形容詞的用法に形容詞的用法とする。
この基準にヒットした用例は3495個でしたが、その中で用例が5例以上ある66個の動詞を検証しています。4例以下は形容詞的用法に現れにくいと考えたためです。
まず、66個の動詞を自動詞と他動詞に分け、さらに自動詞を非対格動詞、非能格動詞、非対格・非能格動詞に分けています。非対格動詞とは、主語が指すものの非意図的事象を表すもので、非能格動詞は主語が指すものの意図的な動作を指すものです。非対格・非能格動詞は、前の2種類の動詞の性質を併せ持つものです。また、他動詞は、再帰動詞と意志動詞にわけています。
分析の結果、形容詞的用法に現れやすいのは自動詞であり、全体の82%を占めています。そのうち、非対格動詞が67%、非能格動詞が6%、非対格・非能格動詞が9%でした。他動詞は18%ですが、再帰動詞がその中の12%分であることも注目するべきところです。再帰動詞は、自動詞に似た性格を持っていることを指摘しています。このことから、他動詞は形容詞的用法の用例は多くないことを述べています。

以上のことを踏まえ、動詞の他動性との関係について書いています。
形容詞的用法に現れた他動詞は12個ですが、これらは動作主の動作が対象に及ぶだけで、対象に変化を起こさないものです。つまり、対象が変化を被らないということは、他動性が低いということだと述べています。よって、他動性が高い動詞は形容詞的用法になれないが、他動性が低い動詞は形容詞的用法になりやすいという予想をしています。
この予想を検証するために、66個の動詞を「変化後状態」、「動作後状態」、「状態」の3グループに分けています。これらをさらに、動詞の意味の側面と形の側面から検証し、筆者が動詞をの他動性を表にまとめています。
この検証から、66個の動詞はすべて他動性が低いことを明らかにしました。
そして、まとめとして、形容詞的用法と他動性の関係を3点挙げています。

 1. 形容詞的用法は、他動性が低い非対格動詞に現れやすい。
 2. 形容詞的用法は、他動性が高い他動詞・非能格動詞には現れにくい。
 3. 形容詞的用法は、他動詞であっても、他動性が低い動詞なら形容詞的用法になれる。

この論文の面白い点は、動詞の連体修飾節における形容詞的用法を他動性という観点から考察している点だと思います。動詞が述語としての役割ではなく、修飾としての役割で使われる場合は、他動性が低いものしか形容詞的に使えないということを実際の用例から指摘しているのはとてもよい視点だと思いました。

一つ批判をするならば3495例収集した中で、4例以下の動詞を省いて考察しているところです。用例数が少ないということは、蔡がまとめた他動性との関係に反するものが入っているということが考えられます。概ねまとめている他動性との関係には納得できますが、省いてしまった動詞を考える中からも特徴が見いだせたのではないかと思います。

引用文献
高橋太郎(2003)『動詞九章』ひつじ書房
寺村秀夫(1984)『日本語のシンタクスと意味Ⅱ』くろしお出版
森田良行(2002)『日本語文法の発想』ひつじ書房

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