接続助詞「シ」の機能

こんばんは。夜ゼミ3年の山崎です。寒い日が続いていますね。最近はスーツを着て、都内の知らない場所に行くことが多くなり、なかなか新鮮です。でもこの間は、某地下鉄内で迷子になって駅員さんに助けられたあと、会場に向かう道を逆走してしまいました。春までに方向感覚を養いたいです。

さて、今回紹介する論文は、白川博之(2001)「接続助詞「シ」の機能」(『意味と形のインターフェイス 中右実教授還暦記念論文集』pp.825-pp.836.)です。私は、理由や並列を表すわけではない終助詞「シ」の意味や機能について研究をしてきました。しかし、実際に集めたデータを分析する際、同じ文末に位置する「シ」でも、言いさしの「シ」と、終助詞として機能する「シ」の区別が曖昧な用例があり、言いさしについても理解を深める必要があると感じました。今回の論文では、接続助詞「シ」の言いさしを中心にその談話機能が考察されています。

まずはじめに、白川(2001)は、接続助詞「シ」の言いさしではない主節を伴った表現を、並列の在り方から見て大きく2つに分けている。

①併存用法 「PQRシ。」型…シ節の文内容と主節の文内容が並列されている用法。「たり」「て」といった他の接続表現とは異なり、一方が成り立つのではなく他のことも成り立つ事柄を並べている。

②列挙用法 「PQX。」型…シ節の文内容と主節の文内容が並列されているのではなく、主節の文内容が*1統括命題である用法。何らかの統括命題を共有している事柄をシ節の文内容として列挙している。(*1統括命題…寺村(1984)文として現れているかいないかは別として、話し手の意識に存在するあるひとつの命題。)

ここで白川(2001)は、①と②は統括命題の有無が異なるとし、統括命題を常に伴うのは②の列挙用法のみだと述べている。そして、これらの分類を踏まえた上で、言いさしはどちらにも位置づけられるとして言いさし(③~⑥)について説明している。

③併存用法の言いさし「PQRシ。」型

1)一人でできるスポーツじゃないですか。だからやりたい時にできるでしょう。

しかも誰の邪魔にもならない、お金もそんなに掛からない

この③はただの倒置用法とは異なり、「しかも」「も」が共起していることからも、シ節は先行の独立文とは並列的に並べられるべく、別に追加して発話されているとしている。

④併存用法の言いさし「PQシ。」型

2)手紙だと、何かことばが違っちゃう、電話ってのも雑ださ―――そのうち、そのうちって言ってたんだよな。

④はシ節同士が並列されているだけで、それらが他の独立文と関係づけられてさえいない。意味的に③とは、同時に成り立つ文内容を並列するのではなく、併存する相容れない文内容同士を対比的に並列させているところが異なっている。

⑤列挙用法の言いさし「XPQシ。」型

3)いや、ここでもあまり役に立てなくて。故障はする、大会には勝てない

統括命題の後に、個別の事象を並列させる用法。並列関係にあるのはシ節同士のみで、先行文はシ節の文内容と「統括命題と個別事象」という関係にある。ただし、白川(2001)は、倒置されているのではなく、あくまで統括命題が先行文に言語化されて現れただけだとしている。

⑥列挙用法の言いさし「PQシ。φ。」型

4)そうだけど……純子さんにはいつもこの人がついてる、僕の前からさらってっちゃう…。

⑥はシ節の統括命題が言語化されておらず、言外に暗示されたケース。外見的には④と同じだが、統括命題を伴う点で異なる。

以上から白川(2001)は、いずれの場合においても、あるはずの主節が立ち消えになっている訳でもなければ、倒置によって前に出ているわけでもないと述べている。そして、言いさしとされるシ節の文内容は、先行する独立文の文内容と追加的に関係づけられるもの(③)か、もしくは他のシ節の文内容(明示・暗示の両方の場合がある)と関係づけられるもの(④⑤⑥)があるとしている。そして、接続された前後の文内容を関係づけるという構文的な機能ではなく、その文内容を前後や言語化されているかされていないかを問わず、他の文内容と関係づける談話的な機能を持つとした。最後に、「接続助詞「シ」の機能:「Pシ」は、文内容Pが成り立つだけでなく、それ以外にも成り立つような文内容Xが併存することを示す。」として締めくくっている。

他の先行研究において意味から理由用法と並列用法のふたつに分けられていることが多いのに対し、白川(2001)では並べ立てるという「シ」の根幹にある機能と統括命題の有無に注目して、①の併存用法と②の列挙用法に分けている点は新しいです。しかし結局は、①の併存用法が一般的に言われる並列用法、②の列挙用法が理由用法に該当するのではないかと感じました。また、②の列挙用法に統括命題が常に伴うのは納得ができますが、①の併存用法は存在しないと述べている点が説明不足で、そうとは言い難いと思えます。なぜなら、①の併存用法で並べた立てる事柄も、文脈が無いと不自然なものが多いからです。文を越えた何らかの条件、ようするに統括命題のようなものを必要としていると考えた方が妥当ではないでしょうか。言いさしの構文の分類(③~⑥)についても、今後の分析において参考にしていきたいと思います。