ガ行鼻濁音の消滅について

 こんにちは。昼ゼミ2年の田代衛です。憧れだった都会の一人暮らしが始まりました。新しい街は日大生・明大生が多く住む学生街であり、決して広くはないアパートですが、今までよりはるかに快適な毎日が送れることを楽しみにしています。
 さて、今回はガ行鼻濁音について、次のレポートを要約します。

 永田高志(1987)「東京におけるガ行鼻濁音の消失」『言語生活』No.430 筑摩書房
 
 戦前まで「日本語らしい美しい発音」として教育や音楽、放送などの場で積極的に指導されながらも、戦後になってからは東京において消滅しつつあるガ行鼻濁音(ŋ)。
 金田一春彦氏は昭和16年、15~17歳の学童70人を対象に行った調査で、漢語にガ行鼻濁音を用いない〔g〕と発音する傾向が盛んであることを示しており、戦中からすでに鼻濁音の消滅が始まっていたことが分かっています。

 そこで筆者は、
①鼻濁音の消えやすいごと消えにくい語という語彙上の区別はあるのか
②あるとすれば、いったい何を基準に消失したのか
という2点に焦点を絞り、昭和59年3月、次の調査を行いました。

対象:中野区在住の東京都生まれの10代~80代以上の男女
方法:なぞなぞ式質問(発音に無意識になりがち)と、字に書いたものを読んでもらう方式(発音を比較的意識しやすい)ふたつの方法を併用。
ⓐ複合語、ⓑ外来語、ⓒ漢語、ⓓ和語、ⓔ母音の広狭、ⓕアクセント核の有無、ⓖ格助詞の「ガ」、ⓗ/-ng/(ガ行の直前にn音がある)の音環境を基準に選んだ以下の単語を発音してもらう。
   十五、窓ガラス、ゴロゴロ、エネルギー、エゴイスト、ヨーグルト、オルゴール、洋画、詩吟、会議、英語、鏡、柳、あご、鍵、これが、考える
   回答を世代別に分ける。
 
 調査の結果
・複合語である「十五」「窓ガラス」「ゴロゴロ」はほぼ全員が鼻濁音を使わない〔g〕で発音する。
・外来語については、60代くらいを境に〔ŋ〕から〔g〕へと使用率の高さが逆転している。
・漢語は40~50代を境に〔ŋ〕から〔g〕に変化をしている。
・全体として和語のほうが漢語より〔ŋ〕の使用率が高い。
・格助詞「ガ」では〔ŋ〕と発音される率が高い。
・/-ng/という発音をする「考える」がすべての語の中で〔ŋ〕と発音される率が高い。

 以上の結果をもとに、統計学で用いられる重回帰分析という方法で分析した結果、ガ行鼻濁音〔ŋ〕を用いるかどうかには和語、漢語、外来語という要因が大きく関わり、またその中でも回答者の年齢が高いほど鼻濁音を使う割合が高くなるということが判明しました。
 また、母音の広狭、アクセント核の有無は、ガ行鼻濁音の選択にはおおきく関与はしていないということです。

 以上が今回の論文の要約です。
 私は趣味で、昭和初期~20年代までの歌謡曲を聞きますが、たしかに、現代のJ-POPと比較するとガ行鼻濁音を用いる歌手はずっと多く存在します。中でも、昭和の歌姫として名高い美空ひばりの鼻濁音は大変美しく、これが正しい日本語の発音なのか、と聞くたびに感心させられます。それが今日において失われつつあるという事実について考えると、少しさみしい気持ちにもなります。言葉は絶えず変化し続けるといわれていますが、発音も50~70年ほどでこれほどにまで変わってくることに驚いています。
 今回の論文の調査は昭和59年(1984年)に行われました。30年も前のことであり、当時10代だった人は現在は40代、当時80代以上だった人すでに亡くなっていると予想されることから、現在、同様の調査を行うとしたら、当時とは大きく違った結果が得られることでしょう。次回の研究の参考にしたいと思います。

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