皆様、こんにちは。昼ゼミ2年の鳥居由紀です。テストが終わり、長い春休みですね。毎日好きなだけ遊んで、たくさん食べて、飲んで破産するぞ。と言いたいところですが、先日一年続けていたバイトをやめてしまい、どうやら節約生活のはじまりとなりそうです。働かざるもの食うべからずというのは、まさにこのことですね。
さて、今回私が紹介する論文は、井本亮(2011)『「普通にかわいい」考』(商学論集 第79巻第4号pp.59-pp.75)です。近年、若者を中心とした話者に見られる、「普通においしい。」や、「普通にかわいい。」など、副詞的成分「普通に」が被修飾成分の高い程度を表す用法について論じてます。
辞書の定義では、「普通」は、「他の同種のものと比べて特に変わった点が無いこと。特別でなく、ありふれていること」とされています。井本はまず、「普通に」がどのような修飾関係を構成しているかを確認した上で、考察として「スケール構造」を用いた分析を行っています。
以下が、「普通に」の修飾関係の構成です。
1.動作様態副詞的用法
(1)演技をせずに、普通に話してください。
2.注釈副詞的用法
表される事柄に対する話者の評価・注釈を表す。
(2)ひとりカラオケも普通に行くよね。
3.程度副詞的用法
ほかの一般的な程度副詞と同様に、段階的程度を有標的に定めることができる。
(3)学食のラーメン{すごく/とても/普通に/まあまあ/そこそこ}おいしいよ。
段階制をもつ属性は、その属性の程度をスケールとしてもっており、その値が定まることで初めて実現するものであり、無標の段階的属性の程度はスケールの文脈的、あるいは語彙的な標準値を取ることによって定まります。ここで「おいしい」が含意するスケール的属性の程度値が無標の標準値ではなく、「すごく・普通に・まあまあ」が定める値であることが表されます。ここでの「普通に」は、スケールの中間点、つまり、標準値よりも高い程度を指しています。
井本は、段階的属性の「スケール構造」を区別する二種類の標準値を用いて、こうした「普通に」が高い程度をあらわあすメカニズムについて論じています。
スケール構造において、程度副詞は、スケール上の標準値を更新して、程度副詞が表す値を指し示します。
例えば、(4)「とてもかわいい。」では、程度値が無評の標準値から、有評の[とても]の値に更新されます。しかし、(5)「普通にかわいい。」では、「普通に」が程度修飾をする際には、「程度値の更新」は行われません。これは、「普通」が無標の標準値であるからです。しかし、次の例は、文脈的標準値が(4)の「とても」によって更新された例と相似しています。
(6)学食のラーメン、まずいって聞いてたけど、普通においしかった。
ここでは、「おいしい」のスケールにおける文脈的標準値は、「まずい」によって負の方向に動いており、文脈的に程度値が低くなっています。そこに「普通に」が程度修飾することで、程度値は「普通」に更新されます。
このことから、「普通に」が高い程度を表すと解釈される用法は、標準程度否定文脈によって述部の程度値が、無評の標準値よりも低く設定されていることで「普通に」の表す程度が、相対的に、正の方向に更新されているためであると考えられます。つまり、高い程度を表すという解釈は、スケール上で正の方向に更新することによる、見かけ上の解釈なのです。
以上が、要約です。この論文の面白いところは、「スケール構造」という、段階制の構造化を用いての考察を行っているところにあります。「普通に」の他にも、近年取り上げられている、「全然かわいい。」の「全然」の肯定的用法も、スケール構造による考察が可能なのではないでしょうか。また、程度副詞について調べていくと、副詞の意味変化における程度的意味の発生課程についての研究もあるため、それも踏まえて今後の研究に役立てたいと思いました。