「い形容詞+ナイ」の韻律的特徴について

昼ゼミ3年の阿部です。提出が遅くなり、誠に申し訳ございません。以後このようなことがないよう、気を付けます。

 さて、今回私が紹介する論文は以下のものです。
湧田美穂(2003)「い形容詞+ナイ」の韻律的特徴-アクセント・イントネーション・持続時間の側面から-」『早稲田大学日本語教育研究3』pp.125-139

 「カワイクナイ」という発話は、「かわいいとは思いません。」と否定を表明する意図で発話する時と、「かわいいと思いませんか?」と同意を求める意図で発話する時があります。これらは言語形式が同じで、韻律的要素だけによって区別されることから、日本語学習者の混同を招きやすいと涌田は述べています。そこで、その問題解決の第一歩とし、「い形容詞+ナイ」の発話における「否定表明」・「同意求め」の両表現意図の音声的実現について、20代母語話者の音声資料を基に、アクセント・イントネーション・持続時間の各側面から考察しています。

 実験の調査協力者は、20代の日本語母語話者16名(男8・女8)です(全て東京母語話者に限定)。まず始めに、調査協力者に、親しい友達同士が話している場面を示した資料を見せ、場面と会話の状況、及び話者の表現意図を十分に理解してもらいます。そして、調査対象発話を含む台詞部分を発話してもらい、その発話を録音したものを、音声資料として分析の対象とします。以下、実験の各分析項目をまとめます。

・ アクセント(「形容詞+ナイ」のアクセントを、語幹と「ナイ」の2単位構成とする)
 「ナイ」は「ナ」にアクセント核がある1型が基本であり、「否定表明」の発話においても、基本のアクセントパタンが用いられています。一方、「同意求め」の発話においては、基本のアクセント型に変化が生じる場合が多く、この変化の要因としては、問いかけの上昇イントネーションが被さることが挙げられます。特に、「ナイ」のアクセント核の有無が両者の違いを顕著にしており、アクセント核がなくなっている「同意求め」の発話の場合、語幹アクセントの核もなくなっている発話が数多く観察されています。

・ イントネーション
 「否定表明」は文末で下降、「同意求め」は文末で上昇するという相違点が観察できます。「否定表明」においては、文末に向けて次第に下降するイントネーションが被さることにより、「ナイ」のアクセント核が弱まる現象が主流として見られます。「同意求め」においては、上昇といいつつも、疑問文に典型とされる1オクターブ相当の上昇が見られない発話が多いようです。主流を占めたものは、新型の平坦な上昇パタンであり、田中(1993)が指摘した文末で「とびはねて」いる現象よりも、むしろ平坦な上昇イントネーションが語のアクセント核をも破壊し、平らに被さるという特徴が顕著に見られました。
 日本語ではイントネーションはアクセントを壊さず被さるものであると言われているにも拘らず、「同意求め」のイントネーションが「ナイ」及び語幹のアクセントを破壊して平らに上昇していくという点は注目すべき新現象である、と涌田は述べています。

・ 持続時間
 「否定表明」と「同意求め」とで顕著な時間差は観察されなかったことから、両者の表現意図の区別において、主要素とはなっていないと分析されています。

 私は、「〜ナクナイ?」をテーマにしており、今後は、異なったイントネーションで「ナクナイ?」を発話した場合、聞き手が発話から受け取る表現意図も異なってくるのか、という疑問について考察していきたいと考えています。涌田の論文を読んでからは、それに加えて形容詞のアクセント型も考慮して実験いくことが望ましいとも思うようになりました。また、昨今の東京の形容詞アクセントにおいて指摘されている、平板型(「赤い」など)と、起伏型(「白い」など)の区別がなくなりつつある現象にも着目できたらと考えています。

【参考文献】
・湧田美穂(2003)「い形容詞+ナイ」の韻律的特徴-アクセント・イントネーション・持続時間の側面から-」『早稲田大学日本語教育研究3』pp.125-139
・田中ゆかり(1993)「「とびはねイントネーション」の使用とイメージ」日本方言研究会第56回発表原稿集

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です