コーパスを使った述語否定形「ません」と「ないです」の使用実態調査

こんばんは。夜ゼミ3年の有瀧です。
12月より完全に頭を受験モードに切り替えていて課題を忘れておりました。課題提出が遅くなったことを深くお詫び申し上げます。

今年度秋学期、私は述語否定形「-ません形」と「-ないです形」の使い分けについて調査を進めてきました。調査の中でも特に書き言葉と話し言葉による使い分け(その中でも特に書き言葉を中心に)を調査していました。
今回紹介する論文はその使い分けの中でも「改まり度」に着目した論文だったので、自分の考察と比較するために温めておいたものです。

坂野永理(2012)『コーパスを使った述語否定形「ません」と「ないです」の使用実態調査』留学生教育 (17) 133-140

日本語の丁寧体の述語否定形には「-ません形」と「-ないです形」の2つの形がある。この2つの形は、日常生活において混在しており、言語使用場面でどちらが使用されているかについての研究もいくつかされているが、これらの研究は各々限定されたデータを使っているため、適用範囲も限られている。そこでこの論文では「国会議事録」、「Yahoo知恵袋」、「書籍」の3種類のコーパスを使用し使い分けについて調査を行っている。

まず「-ません形」と「-ないです形」の先行研究の結果を見ると、新聞を調査した田野村(1994)、小説を調査した上原(2003)では「-ません形」の使用が「-ないです形」より上回っている結果が出ている。一方で会話データを調査した野田(2004)、小林(2005)では「-ないです形」の使用が「-ません形」より上回っていた。この結果より「-ません形」と「-ないです形」の使用割合は書き言葉においては「-ません形」、話し言葉においては「-ないです形」が使用されるのではないかと考察されている。
また池田(2010)では1990年以降に出版された日本語教材に焦点を当て調査をし、イ形容詞は「-ないです形」にのみ接続することがみられ、ナ形容詞は「-ません形」に多く接続することが述べられている。

先行研究からは「-ません形」、「-ないです形」の使用は媒体により異なることが明らかになっているが、その使い分けは単なる「書き言葉」「話し言葉」という範疇では説明できない場合もあることが示唆されている。そこでこの論文では川村(2004)の「公的な場、改まった雰囲気であれば、それ相応のかたい表現が用いられ、私的な場、うちとけた雰囲気であればそれにあったくだけた表現が用いられる」との主張から「改まり度」という要因に着目し調査を行っている。

「国会議事録」、「Yahoo知恵袋」、「書籍」内の「-ません形」と「-ないです形」を接続する品詞別に調査を行ったところ、総数からは3種類全てのコーパスにおいて「-ません形」の使用率が圧倒的に高かった。
品詞毎にみるとイ形容詞が前節する場合は「-ないです形」は「書籍」では少なく、「Yahoo知恵袋」では多い。一方「-ません形」は「国会議事録」、「書籍」で多いが「Yahoo知恵袋」では少ないという結果になっている。
ナ形容詞、名詞では「-ません形」の使用が多いが「国会議事録」、「書籍」では多い反面、「Yahoo知恵袋」では使用率が減っているというばらつきのある結果になった。
動詞でも「-ません形」が使用率の大部分を占めていたが、「本動詞ある」(例:ここに資料はありません/ないです)とそれ以外の動詞で分けたところ「本動詞ある」は「-ないです形」の使用率が高いことが判明した。

この調査により先行研究で主張されていた書き言葉・話し言葉による使い分けは話し言葉である「国会議事録」の結果から支持するものではなかった。また改まり度が高い「書籍」は「-ません形」が多く、改まり度が他のコーパスと比べて低い「Yahoo知恵袋」は「-ないです形」が多かった。このことから丁寧体否定形の使い分けは「改まり度」の違いによって引き起こされると考察している。

秋学期を通してコーパスの使い方の難しさを学んだため、これが正しいとは自分の目で確かめないと言えませんが違う意見の論文を読むことはとても新鮮でした。

毎日寒い日が続きますが、風邪などに気をつけてお過ごしください。

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