〈実現〉を表す視覚動詞「みる」の構文化

 こんばんは。昼ゼミ2年の山下です。先日、自宅のプリンターが壊れ、コピーのたびにコンビニに行くようになりました。運動量が増えた気がします。

 今回は、高橋暦・堀江薫(2018)「〈実現〉を表す視覚動詞「みる」の構文化」『認知言語学論考』第14巻、pp.117-154(ひつじ書房)を要約しました。

 この論文では、「みる」が他の名詞と結びついて〈実現〉の意味を獲得する現象(1)について、主語名詞も含めた構文として捉え、その性質を明らかにしている。また、この構文化プロセスについて通時的観点から考察をし、他動詞かつ視覚動詞である「みる」が非有生の主語名詞を伴う要因を明らかにしている。

 (1)殊に[この交渉が], 国連の米ソ英仏代表の努力によって成功を見たことは, ……
                 (『現代語の助詞・助動詞-用例と実例-』, 村木1983:43 (19))

 筆者は、純粋な〈実現〉の意味を特徴づけているものは主語名詞の非有生性である場合があると指摘し、「〈実現〉の「みる」」に「[[主語名詞]+[目的語名詞]+[「みる」]]」という構文スキーマを想定して分析と考察をしている。

●分析:当該構文の性質
①〈出来事・状況における新たな局面への移行〉を表す目的語名詞と「みる」が共起する
②〈実現〉の意味が強く発現する場合、主語に非有生名詞が現れる
③報告文などの客観性の高い文体の中で用いられるという言語使用域の制約がみられる(村木(1983、1991))

●考察:構文化の過程
①構文の創発
・〈実現〉の「みる」の初出推定時期…明治後期から大正前後
(2)(3)に見られる構造の類似性と時代背景から、近代期における欧州諸言語(英語)との言語接触の影響を主張している。

(2)[今年の上半季は]昨年の上半季に比して収入に於て実に三万六千四百十七円九十六銭乃ち三割二分強の増加を見る。(『太陽』1895年8号, 高橋・堀江2012:100)※
(3)[The year 1861] saw an increase of 49 per cent. (The Times, Feb 20, 1863(同))
※(2)は要約者の都合により旧字体部分を新字体に変更しています

②構文の定着
欧文翻訳や近代前期に出現した欧文脈(欧文の表現構造を日本語の表現に直訳的に移入した文章脈)の隆盛に後押しされたと推測している。

 筆者は、構文化プロセス①②に想定される欧文の影響が、当該構文において他動詞かつ視覚動詞である「みる」が非有生の主語名詞を伴う要因であると主張している。また、上記の言語外的要因に加え、田中(1996)、高嶋(2008)の指摘する「みる」の多義性と意味拡張という言語内的要因が作用することで、構文として慣習化したとしている。

 この論文は、先行研究で指摘されていた言語内要因を支持した上で視点を変え、通時的な分析によって欧文の影響という言語外要因を指摘している点が興味深いです。最後に提示されている〈実現〉の視覚動詞「みる」の構文化プロセスに近いものが、他の感覚動詞やその他の動詞にも起こっているのか調べてみたいと思いました。

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