携帯メールに現れる方言

こんにちは!夜ゼミ2年の山本です。最近、爆食し過ぎて太りました。日本には美味しいものがあり過ぎる、、と思いながらも、この悩みなんて食べる物に困っている人もいる中で贅沢なものだったのだと気づかされ、今もお菓子を食べながら論文レビューを投稿しています。(汗)さて、今回は以下の論文についてのレポートです。

三宅和子(2006)「携帯メールに現れる方言―『親しさ志向』をキーワードに―」

『日本語学/明治書院[編]』第25巻p.18-31

この論文は、関東圏における若者の携帯メールで、方言が遊び感覚で使用されるようになっていることを通じ、携帯メールというコミュニケーションは、方言の使われ方にどのような影響を与えているのか、また、携帯メールに方言が気軽に使用されるようになったのは、どのようなことが起因しているのかを調査データを基に考察している。調査は以下の通りである。

①【自然データ調査】関東圏・T大学の三~四年生が実際に送受信したメッセージを収集したもの。(男女の友人間、述べ196名、913件分のメッセージ)

②【意識調査】関東圏・T大学の一~二年生に行った方言に関する意識調査。(有効回答者93名、男子45名、女子48名)

①【自然データ調査】

[1]共通語話者同士のメール会話

  男:仕事終わったー。さゆりも学校大変やな(*’ω’*) 

  女:をつかれ様ー(*’ω’*)私はこれから授業だべよー💦

 共通語話者同士のメールを見てみると、明らかに方言と分かる表現を使用している。また、方言とともに絵文字や顔文字などの多用から、話し言葉では不可能な、書き言葉としての表現や遊びを楽しんでいる。

[2]方言話者と共通語話者のメール会話

  男(方言話者) :なんか日曜の朝からとかごめんなぁ(^_^;)

大丈夫やった!?久々に何してるんかなぁ~って思ってさぁ(^^)

  女(共通語話者):ん~普通だよぉ~、学校行ったりバイトしたり

           カズは最近何してんの

 上記はあるメール会話の一部であるが、方言話者の男性に釣られるように共通語話者の女性もさかんに方言を使用している。このことから、話し手が自分の話し方のスタイルを相手のスタイルに近づけ、相手に受け入られようとしていると述べている。また、携帯メールではアクセントの欠落から、音声要素のズレや間違いを気にすることなく方言を気楽に使用できると述べている。

[3]地方出身者の携帯メールの方言使用

  次に筆者は、方言話者が関東の共通語圏に住み始めた時を例に考察している。これは携帯メールの普及に伴い、大学入学で関東圏に来ても地方の仲間と連絡が取れることから、現代では、環境の変化によるコミュニケーションの切れ目がほとんどなくなっているため、方言と共通語が常に並存している状況が作られていると述べている。

②【意識調査】

 調査の結果、メールに方言を用いたことがあると答えた回答者は93名中83名(89.2%)、そのうち61名(73.5%)は話す時にも用いると回答している。更に女子高生同士のメール会話は全く異なる地方の方言を組み合わせている例が多く見られ、これは暗号解読的なコミュニケーションであると推論している。と言うのは、仲間内で分かり合える言葉を使用することで、その中での連帯感を高めると同時に仲間以外の他者とは排他的な関係を持つ可能性を秘めているということだ。

以上のことから筆者は、対面会話のような時間を共有しない携帯メールでの方言使用は、アクセントを気にすることなく書き言葉として使用されるため方言使用がより一層広がっていると主張している。さらに、方言を使用することは親しい人をより親しく結びつけると同時に、親しくない相手を「親しい友人として扱う」ための雰囲気作りに貢献することが起因していると考察している。その一方で、方言を用いて仲間内の親しさを強化することが、それ以外の人に排他的に働くことも起因していると述べている。

この論文を読み、若者が方言を積極的に使用するようになった背景にはSNS上での「打ち言葉」が影響していることを知り、若者が方言を使用する際に意識することとして、自分の研究にも生かせるのではないかと思った。また、方言を使用する相手によって、その使用意図がそれぞれ異なることに着目している視点も良いと思った。方言の使用は、親しさを示す一種のコミュニケーションツールでもあり、方言を使用するうえで若年層と高年層での意識の違いを提示すると、若者が方言を使用する意図が更に深く読み取れるのではないかと思った。