断り表現とラポールマネジメント

こんばんは。昼ゼミ3年の兵藤恋です。就職活動が本格化してきましたね。3年生の皆さんは健康に気を付けつつ全力で就職活動に励みましょう。そして、2年生の皆さんは今から計画的に進めると良いと思います。

さて、今日は以下の論文を要約します。

野木園子(2010)「日本人の断り表現とラポールマネジメントに関する一考察」『二松学舎大学論集』第53号、 pp.97-109.

私は断り表現・依頼表現を研究しており、断り表現をポライトネスの観点から研究している論文があったので、こちらにしました。
この論文では、従来の日本人は具体的な断り表現を伴わないという主張に疑問を持ち、相手との親しさの度合いによって異なるのではないかと指摘しています。筆者は誘いに対して、「断り」という発話行為を親しい間柄において日本人話者がどのように表現するか調査し、その結果を「ラポールマネジメント」という概念を鍵として考察しています。

まず、筆者は「ラポールマネジメント」を、スペンサー―オーティ(2004)が述べた言語使用の持つ社会的関係の維持・管理という機能という概念であり、自己と他者間のバランスに強い関心を示すものと定義しています。
調査方法として、実際に映画に誘っても不自然ではない関係の人20名に、「今度の日曜日もしよかったら映画にでも行きません?」という質問をし、応答を見るという方法を用いています。質問に先立って、本当は行こうと思えば行けるが、気が進まないので断るという前提で回答してもらっています。

そして、岡本等(2003)の意味公式に多少修正を加えたものをもとに、分析しています。具体的には感謝、情報、共感、理由、結論、謝罪、関係維持、間を持たせる表現、自問的な文末表現、中途終了文の10つに分類しています。筆者は「理由」が90%の回答者に見られたとし、特に細かく分析しています。今回見られた「断り」表現を断る理由に応じて、以下の4パターンに分類しています。

・正直な気持を述べて断るケース
(1)なんか、ちょっとここんとこ疲れててさー。映画って言う気分じゃないんだよね。ちょっとねー、寝るわ、たぶん。

・自分自身の事情に絡ませて断るケース
(2)行きたいんだけど、具合悪いかな、今は。

・他の人に絡ませて断るケース
(3)えっとね、友達が、あの、アメリカから、あのちょっと、帰ってくるんで、彼女の予定を聞いてみないとわからないんでー。ちょっと、行けないんですよ。

・その場で断らないケース
(4)スケジュール確認してから、あの、折り返し電話します。

考察として、大方の回答者は断る理由を明確に述べ、曖昧性が見出せなかったとし、40~50代の女性で、親しい友人の間柄の友人間においてという今回の調査結果に限ってだけ言えば、日本人の断り表現は曖昧であるという指摘は成り立たないとしています。

最後に「ラポールマネジメント」という概念を使って今回の結果を説明しています。断る理由として、正直な気持を述べた回答者の説明は長く、共感、関係維持を表す表現を多用する傾向にあるとし、これは断られる人との調和的関係を脅かす言語行為を和らげる効果があるからであると述べています。一方、具体的でない断り表現を用いた回答者の談話は短い傾向があり、これは事情を察してほしいという断る側の心理が働いたためと推測しています。「結論」を述べた回答者が半数弱だったことから、日本人のコミュニケーションにおいて「理由」さえ伝われば必ずしも「結論」を言う必要がないことを主張しています。

今後の研究として、目上、または親しくない相手に対しの発話行動も調査し、比較することが必要と述べていますが、私は世代別調査も必要であると感じました。40~50代の女性と20代~30代の女性とではやはり変わってくると感じ、より曖昧な回答が増えるのではないかと考えられます。私の本来の研究である断り表現・依頼表現も、こういった別の観点からアプローチし、卒論につなげていきたいと思いました。

参考文献
野木園子(2010)「日本人の断り表現とラポールマネジメントに関する一考察」『二松学舎大学論集』第53号、 pp.97-109