「異文化コミュニケーション場面にみられる共話の類型」

こんにちは!昼ゼミ3年の酒井志織です。副ゼミ長だというのにこんなにギリギリの提出になってしまい、すみません…。今年の幹部さん達は大丈夫だとは思いますが、絶対に見習わないでほしいところです…。

では、早速今日は以下の論文をレポートします。

笹川洋子(2007年3月) 「異文化コミュニケーション場面にみられる共話の類型」 『神戸親和女子大学言語文化研究』 1巻、pp.17-40、神戸親和女子大学

この論文では話者が共同で一文を創る共話の形態に加え、異文化コミュニケーションの場面で話者同士が行う共話の形態の多様性を述べています。共話というのは日本人の会話によく見られるものであり、二人以上の話し手が、共同で発話を創ることです。この共話は会話の背景知識を共有できる友人同士の会話で起こりやすいと言われています。そのため、異文化コミュニケーション時にはあまり見られないかと思われますが、共話が見られたということを、先行研究において黒崎(1995)や萩原(2002)、堀口(1997)などが示しています。しかし、これらの調査はそれぞれ異なる会話状況で行われており、分析話枠組みも異なります。そこで、この論文では同じ条件の会話状況において、同文化、異文化コミュニケーションで起こる共話の違いを調査しています。そして、この論文では様々な共話の形式を以下のⅠ~Ⅳの観点から分析しています。

Ⅰ笑い、あいづちやパラフレーズ、オーバーラップにより共感を示す共話。

Ⅱ文レベルで起こる共話。文の後半をもう一人の話者が引き継ぎ、完成させる一文を共同で創る共話と、推測、共感表現を添える共話がある。

Ⅲ共感を表現する以外の、励ましや誉め、謙遜表現に対する否定など、より積極的な発話行為により相手と協調関係を志向する共話。

Ⅳ文を超えた、談話レベルで起こる共話。助け舟型、共話連鎖、共感表現の増幅、共話的な話題交換、先行話題導入による共話が観察された。

以下ではこのⅠ~Ⅳの流れでまとめていきたいと思います。

まずⅠでは、笑いやあいづち、パラフレーズ、オーバーラップなどの副次言語による共話を挙げています。そしてこれらは異文化コミュニケーションにおいても同文化同様に見られたとしており、特にオーバーラップに関しては話者の属する言語文化圏によって評価が異なるものでありながらも、この調査においては様々な話者が協調的オーバーラップをしていたとしています。

次にⅡの共感を表す文を添加する共話は、以下の6つの型に分けています。予測による相手の発話の先取り文を添加する型、共感表現を添加する型、共感を示す意見を付け加える型、新しい情報を付け加える型、相手の発話を別の表現で言い換える型、先取り回答をする型です。先取り型は日本人女性の会話に多く見られるものですが、今回は中国人女性も使っているなど、ここにおいても異文化コミュニケーションとの差は無いとしています。

ここで、個人的に疑問だったのが、相手の発話を別の表現で言い換える型=パラフレーズなのではないかということです。また、記載されていた例における新しい“情報”というものが共感を示す“意見”としか感じられず、この分類は適切だったのか疑問に感じました。その一つが以下の例(1)です。

(1)(アメリカ人男性EM2と日本人女性JF3の共話)(下線部が共話の型)

JF3 :                日本のー

EM2:僕の海は日本かもしれない    そしてアメリカに帰ってすぐにふけちゃうかもしれない

JF3 :トランク開けたらねえhhhh

EM2:

そしてⅢの発話行為方略などをストラテジーとして用いる共話は、以下の7つの型に分類しています。共話を示す質問、交話的な挨拶を交わす、励ましの表現を用いる、褒めの表現を用いる、謙遜表現とそれに対する否定という、謙遜表現に関わる相互作用を行う、謝りの表現を用いる、誘いの表現を用いる、の7つです。これらも異文化コミュニケーションでも見られたとしているのですが、果たしてこの挨拶という表現は共話に入るのか、疑問に感じた点でした。

そして最後にⅣの共話の連鎖や、話題領域の交換によるディスコース・レベルの共話です。これはつまり一つ一つの発話というレベルを超えて、談話レベルで起こる共話のことを言っています。そしてここでも笹川(2007)は5つの現象が見られたとして分類しています。助け舟型、共話連鎖、共感表現の増幅、共話的な話題交換、先行話題の導入の5つです。ここでは談話レベルにおいても共話が起こっていることが確認できた、としています。一つ一つの発話レベルで調査されていることが多いので、大きく見る必要もあることを感じました。

結論としては、先行研究同様に日本人どうしの会話で見られた共話の型は異文化コミュニケーションにおいても観察され、そして母語話者と同じように日本語学習者も共話を創る役割を担っていたということです。しかし今回は親しい者同士の会話データは無かったため、そこは今後の課題としています。

最後になりますが、今回私がこの論文を読んだのは「共話」という点と「異文化コミュニケーション」という点が気になったからです。私が課題として取り組んできた「あいづち」は共話において特徴的なものであり、また異文化コミュニケーションにおいて差はあるのか気になっていたからです。今回は共話自体の使われ方に大差はなかったということでしたが、違う結果になった論文はあるのか、探してみたいと思いました。

引用文献

・黒崎良昭(1995)「日本語のコミュニケーション―共話について」『園田学園女子大学論文集30‐1』

・萩原稚佳子(2002)「日本語インタビューにおける「言いさし―割り込み」の連鎖―対人コミュニケーションの視点から―」異文化コミュニケーション研究第14号

・堀口純子(1997)『日本語教育と会話分析』くろしお出版