役割語の<神様>キャラクター言葉について

こんばんわ。昼ゼミ3年の張です。
春休みに入る寸前は、毎日ただただこたつに入ってごろごろしたい気分です(苦笑。
寒い日が続きますが、皆さんも風邪など召されませぬようお気を付けください。

今回紹介したい論文はとても面白いので、役割語について興味のある方、是非読んでみて下さい。

さて、本題に入りたいと思います。

秋月高太郎「ウルトラマンの言語学」(2012)『尚絅学院大学紀要』(63)、 p17-30

ある男子大学生が自分のことを友人と話しているときは「オレ」といい、就職面接では「ワタシ」という。社会言語学ではこのような話し手が場面や相手によってことばを使い分ける現象を「スタイル・シフト(style shifting)」と呼ぶ。つまり話し手は場合によって、それにふさわしい会話スタイルの選択を行うのである。しかし現在女性が自分のこと「ボク」と呼ぶ、いわゆる「ボクっ子」については、スタイル説は十分説明できない。それに対して、金水(2003)は「役割語」という概念を導入した。さらに定延(2006)はこれを発展させ、役割語の使用によって繰り出される人物像を「発話キャラクター」と名づかた。この論文はウルトラマンを対象し、ウルトラマンことばの特徴を役割語説で分析している。

○<ヒーロー>の役割語
ここの「ヒーロー」は「物語における主役キャラクター」を指す。金水(2003)はヒーローが<標準語>を話すの対し、脇役は非<標準語>を話すことが多いという。その理由は、主役のキャラクターは物語の読み手(視聴者)が自己同一化する人物である。ヒーローが標準語であれば、視聴者は違和感なく受け入れ、自己同一化をする準備が出来ているという。
しかしウルトラマンが<標準語>を話しているのは<ヒーロー>であるというより、むしろ人間体のハヤタ隊員こそがメインヒーローである。ここで秋月が出していたのは<神様>という仮説である。

○<神様>キャラクター役割語
ウルトラマンの設定はM78星雲「光の国」の住人である。地球人よりはるかな文明や科学を持ち、地球人にはない姿と超能力を持っている。つまり地球人にとって、ウルトラマンは未知な存在であり、怪獣に対抗する力を持つ「神」に等しい。この論文は、集中的<神様>キャラクターであるウルトラマンが使っている役割語の特徴について、分析している。

① <標準語>で話すこと
<標準語>の「値段」というものが関係している。井上(2000)は「ことばの値段」という概念を導入した。明治政府によって政治的な意図で、近代以降の日本語において、<標準語>は絶対的な価値を与えられている。なので、<標準語>は神様キャラクターにとってふさわしいことばである。

② 自称は<ワタシ>である
ほぼすべてのウルトラマンに共通している一人称<ワタシ>は神様の品格を保つため。「オレ」には威張ったイメージで、「ボク」にはへりくだったイメージがある。

③ 対称詞は<君><おまえ>である
スタイル説に従えば<君>や<おまえ>は、話してが聞き手よりも上位であることに用いられる対称詞。役割語説からいえば<君>や<おまえ>は神様キャラクターを繰り出すのにふさわしい対称詞である。一方、ウルトラマン同士の会話においては、相手の名前を用いている場合が多い。

○<神様>キャラクターの対人的ムード
野田(1997)によれば、対人的ムードは以下のようなものである。

① 聞き手に情報をどう伝えるかどうかについての心の態度を表す形式
主張 「よ」
確認 「ね」

② 聞き手に情報の提供を促す心の態度を表す形式
質問 → 上昇イントネーション

③ 聞き手に行為の実行を促すかどうかについての心の態度を表す形式
命令 命令形、「なさい」「な(禁止)」
依頼 「てくれ」「てください」
勧誘 「(よ)う」

実例(ここは割愛させて頂く)からみればウルトラマンは③だけを使っていることがわかる。超越的な存在ウルトラマンにとって、あらゆる情報は既知のものであって、聞き手と自分が持っている情報を共用したいための「主張」、情報の確度を上げるための「確認」、聞き手からの情報を求める「質問」は<神様>キャラクターにふさわしくないという。

○<神様>キャラクターの声

① 平坦調で変化が少ない
渡辺(1994)はイントネーションの機能として「スタイル機能」というものをあげている。例として、イギリス教会における祈りは「音調的に平坦調が非常に好んで用いられ、かつ使用のピッチの幅が狭いため、変化が少ない、同じリズムを繰り返す単純な調子」という特徴があると述べている。それは、ウルトラマンの発話における特徴と共通している、いわゆる<荘厳さ>を維持するため。

②       残響音(リバーブ)を伴う
人間の音声器官と異なって、ウルトラマンが話すとき「残響音」が伴っている。高い礼拝堂やトンネルで話しているような、<神様>の声が天上から地上に降り注ぐようなイメージがあるという。

こんな風に分析してみてば、<神様>キャラクターの役割語のいくつの言語学的特徴がわかりやすくなっているのであろう。