こんにちは、夜ゼミ2年の栗田です。受験シーズン目前のうえ、人が足りていないせいなのか、バイトのあまりの社畜っぷりに、ここにきてバイトを変えようか考え始めている今日この頃です。
さて、今し方他の方々の要約を拝見して見たら重複するテーマになってしまいましたが、自分の口癖で気になっていたこともあるので、以下の論文を紹介したいと思います。
福原裕一(2009) 「会話に見られる「なんか」の機能拡張―フェイス・ワークの観点から―」 『国際文化研究』 15号、pp.181-195、東北大学国際文化学会
この論文では、若者が多用する「なんか」の用法を、フェイス・ワークの理論の視点から考察し、若者が使う「なんか」の用法は、文法化によって意味拡張した、と主張している。フェイスとは、お互い、相手にこう思われたいというイメージのことで、フェイス・ワークは特に聞き手のフェイスを重んじるポライトネス理論である、と福原は説明している。その際、フェイス・ワークの枠組みを、Brown and Levinson(1987)のPositive Face(PF)とNegative Face(NF)の概念から、以下のように再定義した。
PFの【肯定的特徴】:理解されたい、仲間になりたい(以下:【PF+】)
PFの【否定的特徴】:非難されたくない、嫌われたくない(以下:【PF-】)
NFの【肯定的特徴】:自由でいたい、独立していたい(以下:【NF+】)
NFの【否定的特徴】:束縛されたくない、押し付けられたくない(以下:【NF-】)
例えば以下の例での、
(1)a「俺の財布盗ったのおまえだろ」
b「だから俺じゃないって、何度も言ってるじゃん」 (作例)
(1)のbの言うことが本当であったら、相手のフェイスを脅かしてでも、自分の意見を理解してもらおうと、自分のフェイスを守ろうとする。この場合、ポライトネスの考え方では扱うことはできないが、筆者は相手のフェイスをつぶす行為も一種のフェイスと考え、今回の論文で扱っている。また次の例の、
(2)「田中君とか、女の子と付き合ったことないでしょ?」 (作例)
では、相手のフェイスを傷付ける発話行為(Face Threatening Act、FTA)に際して、「とか」という言葉を入れて、「でも付き合ったことがないのはあなただけではない」とFTAの度合いを緩和しているものである。これは、聞き手の「嫌われたくない」というPF-を侵害する代わりに、「仲間が欲しい、理解されたい」というPF+に配慮しているものである、と言っている。このように、おなじPFでも様々な側面を持つことを指摘している。
次に、福原は「なんか」を、いくつかの先行研究を参考に、品詞ごとに分類している。(田窪・金水1997、鈴木2000、内田2001、メイナード2001など)
①不定代名詞の「なんか」
(3)F4W0052:F1T004はさぁ、やりたいことほんとにないの?
F1T004:%%ないっていうか- -見つからない。
F4W005:今はね。
F1T004:あたしは- -まぁ甘えなんですけどできれば今のままでいたいと思っています。
F4W005:あのさ- -具体的じゃなくていいしさ- –
F1T004:はい。
F4W005:何バカじゃないの?って思われてもいいから、なんかないの?
F1T004:国家資格を取りたいなって思っています。 (2005年3月21日放送)
(3)の例のように、「未知の物事」「不特定の物事」や「はっきりしない物事」を指示するとしている。
②副助詞、とりたて詞の「なんか」
(4)山下君と鈴木さんなんかと一緒に行こうと思ってるんだ。 (作例)
(5)羨ましいね。ぼくなんか、とうに卒業してしまった。 (沼田1986)
(6)お前なんか相手にしていたら、牛川の名がなくぜ。 (沼田1986)
副助詞・とりたて詞の「なんか」は、先行する名詞句に「一例であることを示す」「対比させて強調する」「価値の低いものであることを示す」意味を添加するものとしている。また、とりたて詞の「なんか」は、(ⅰ)例示・同類、(ⅱ)叙述の弱め・和らげ、(ⅲ)話し手の評価を暗示する、という用法を持つとしている。
③副詞の「なんか」
「なんか匂う」「なんか寂しそう」などというように、副詞の「なんか」は漠然と感じられるが特定できないものがあることを表す、としている。
そして、福原は文法化の過程における「意味の漂白」の観点から考察して、
①不定代名詞 「不特定な指示」「他の可能性の示唆」
↓
②とりたて詞(ⅰ)例示 「他の可能性を示唆」
↓
②とりたて詞(ⅱ)叙述の和らげ 形式上「他の可能性を示唆」
↓
②とりたて詞(ⅲ)話し手の評価 「価値の低い(時に高い)ものの例示」
と、意味が拡張したと考察している。また、③副詞は、①の「不特定な指示」の拡張だと、述べている。
また、「なんか」の談話調整機能として、鈴木、田窪・金水が取り上げた「言いたいことが頭に浮かんでいるにもかかわらず適切な言葉がすぐに出てこない時などに見られるつなぎ言葉(filler)」をあげ、発話権を獲得・保持する場面でも使用されると指摘している。また、
(7)話題:就職先選び
084G:なんかやっぱ、ね化粧品メーカーって、楽しそうだよね、
085:普通のとこより。
086H:うーん。
088H:(089Gと同時)なんか自分の興味が、かなり
089G:(089Hと同時)なんか、そー
090:なんかさ、いっこ下前バイトで一緒だった子大坂の薬学で、 (鈴木2000:74)
(11)の例のように、先行する話し手の発話と重なる場合が多く、相手の発話に重ねるよう、この「なんか」を発話することにより、発話権を確保し次の言葉を準備する余裕を作り出している、という鈴木の指摘も取り上げている。また、このような用法は最近確認された用法で、若者の特有の用法であるとしている。
以上から、福原は文頭で使用される「なんか」をフィラーとして扱い、フェイス・ワークの視点から、話し手と聞き手双方のフェイスがどのように保持されているのかを着目して、「なんか」の分類を行った。
(ⅰ)フィラー(1):「今、適切な言葉を探している」ことを示す
a. とりあえず「なんか」と発話することで、今ある自分の発話権を保持する。
b. 聞き手の注意を自分に喚起すると同時に、聞き手に発話権を奪われない ようにするための、話し手 の【PF+】保持機能。
例:「あたしは自分はななんか、なんか、その、なんか、それを言われた時は…」
(ⅱ)フィラー(2):新たに発話権を獲得することの前置き
a. 直前の話題との関連性が保たれている場合→発話権獲得
直前の話題との関連性が保たれてない場合→新しい話題の導入
b. これからの発話権獲得・新しい話題の展開を聞き手に喚起するための、話し手の【PF+】保持機能と なり、聞き手の【NF-】を侵害することもある。話し手が沈黙を回避する際に使用することもある。この場 合は、聞き手の【PF+】保持となる。
例:(直前の発話と重なる形で「なんか」を発話)「なんかあたし、そのまま付き合ったこととか何回かあった んだけど」(発話権獲得)
例:a (bの沈黙の後)「なんか、俺が思うに、bはランキングが自分にとって本当に必要なものを選ぶのを 邪魔してるってことじゃないの?」
b 「あ、はい。そういうことです」(聞き手に助け舟を出す)
(ⅲ)フィラー(3):相手の発話を引用し、それに対する自分の評価を示す
a. 展開されている話題や聞き手、または第三者の発話を引用し、それに対す る話し手の評価や態度を 示す。
b. 前置きとして「なんか」を発話することで、形式上引用する内容が「不確か」であることをメタ言語表示す
る。「不確か」を示すことにより発話責任を回避し、話し手の【PF-】保持機能を持つ。同時に評価の根拠
が不確かなため、話し手の評価は正しくない可能性を示唆するための、聞き手の【PF+】保持機能を持
つ。
例:「M1K001 きみはさーさっきなんか学歴とりゃいいと思ってるやつは?…だめだみたいなこと言ってた けど…」
そして、フィラー(1)と(2)は、③副詞の「なんか」の拡張であるとし、「不特定な指示」や「他の可能性の示唆」の意味が完全に消失しており、発話権の保持や獲得に関する機能に特化したと主張している。また、フィラー(3)は②とりたて詞からの拡張であるとし、相手の発話を引用し、それに対する自分の評価を示しているとしている。
最後に、フィラー(1)と(2)の、「不特定な指示」の意味が完全に消失したという主張は正しいのか、発話権の獲得であっても、まだ「漠然とした何か」を指す意味は残っているのではないかと、疑問に思いました。
以上になります。来学期に皆様に会えることを楽しみにしています。