こんにちは、夜ゼミ2年の志村です。先日、大雪の中成人式に行ってまいりました。会場内以外では凍えた記憶しかありません。高校入試日も大雪、入学式は嵐、修学旅行にはインフルエンザ大流行、大学入学直前に大震災で入学式中止・・・。1992年生まれの呪いはどこまで続いていくのでしょうか。
さて、今回私は山本幸一(2006)「「関連性」による意味拡張としてのメトニミー」『日本認知言語学会論文集』第6巻pp299-309. を要約しました。
この論文では、「隣接性(contiguity)による転義」(佐藤、瀬戸)や、「同一概念領域内での転義」(Group μ 他)のようなメトニミーの定義の先行研究に対して、以下の3つの問題点を指摘し、これらの問題点を解決し、メトニミーの成立条件となる定義を探るためには、「関連性」という概念が適切であるということを主張している。まず下記の問題点①を具体的に説明し、並行して「関連性」の説明と応用を行っている。次に問題点②、③について詳しく言及し、最後に筆者が主張するメトニミーの定義をまとめている。
①「隣接性」という概念は、具体的な「外界における空間的隣接性」と抽象的な「概念における隣接性」にわたる曖昧な概念となっており、「隣接性」という概念が整理されていない。
②メトニミーを「同一概念領域内での転義」、メタファーを「異なる概念領域間での転義」としているが、「概念領域」の異同で必ずしも両者を区別できるわけではない。
また、「概念領域」は静的な意味を内包するため、動的なメトニミーのプロセスを説明するものとしては不適当である。
③「隣接性」や「同一概念領域」を用いた定義が、メトニミー成立の必要条件を捉えていないため、「隣接性」や「同一概念領域」を満たしていても、メトニミーが成立しない場合がある。
筆者はまず、主張する定義の基になるものとして、籾山(2001)のメトニミーの定義を挙げている
メトニミー(metonymy)
二つの事物の外界における隣接性、あるいは二つの事物・概念の思考内、概念上の関連性に基づいて、一方の事物・概念を表す形式を用いて、他方の事物・概念を表すという比喩。(籾山(2001))
筆者はまた、先行研究の問題点①の「隣接性」の不適当性を具体的に示すために、佐藤(1978)、瀬戸(1997)、Lakoff and Johnson(1980)、Ungerer
and Schmid(1996)が分類しているメトニミーとその転義の型を「外界における空間的隣接性」と「概念における隣接性」に分けて、具体例を挙げて説明している。[ ]が転義の型である。文字通りの意味を「ソース」、意図された意味を「ターゲット」と表す。
外界における空間的隣接性
(1)当社は長髪は雇わない。 [部分→全体] (包含)
(2)赤頭巾がやって来た。 [着用物→主体] (付属)
(3)ワシントンとモスクワの交渉。 [場所→機構] (位置)
(4)サックスが風邪を引いて休んだ。 [道具→使用者] (近接)
概念における隣接性
(5)頭脳を試すいい機会だ。 [場所→機能]
(6)彼はフォードを買った。 [生産者→生産物]
(7)きつねうどん [主体→関連物(好み)]
(8)スコッチを飲んだ。 [場所→生産物]
(9)チェルノブイリを忘れるな。 [場所→できごと]
「外界における空間的隣接性」の空間的関係を「包含」、「付属」、「位置」、「近接」の4つに分類し、それらを以下のように説明している。
「包含」=空間的関係として、外界において客観的に存在しうる(誰が見ても、ソースとターゲットの間に関係が認められる)関係である。
「付属」=「包含」の比喩的拡張である。
「近接」=外界において、客観的に存在するわけではない(誰が見てみも、ソースとターゲットの間に関係があると認められるわけではない)。「近接」の関係があるかどうかを区別するのは、認識者の捉え方次第である。
「位置」=外界において、客観的に存在するわけではない。存在物と空間・場所を、特定の「位置」という関係があると認めるかどうかは、認識者の捉え方次第である。
空間的関係として外界に客観的に存在しうる関係は「包含」のみであり、(その意味拡張としての「付属」も入る)、その他の空間的関係は、空間的関係自体がメトニミーを成立させる特徴とはならない。筆者はこれを根拠に、メトニミーの定義の「隣接性」は、「外界における空間的隣接性」としては不適当であると主張する。
筆者は次に「関連性」について説明している。「関連性」とは、「部分」(ソース)と「全体」(ターゲット)との関係が「特徴」と「主体」という関係として捉えられることである。筆者はこれがメトニミーの成立に必要であるとして、それ自体がメトニミーを成立させる特徴とはならない「近接」や「位置」の空間的関係も、この「関連性」が生じてはじめてメトニミーが可能になると説明する。
しかし、ただ「特徴」と「主体」という関係があれば必ずメトニミーが成立するというわけではない。「関連性」が生じるためには、次の例(10)のようにソースがターゲットに対して識別可能な特徴(=識別特徴)となることが必要であるという。
(10)a メガネがやって来た。 [着用物→主体] (付属)
(10)b ✽ズボン/靴下/ベルトがやって来た。 [着用物→主体] (付属)
筆者は次に問題点②、③について3つの点から指摘しながら、問題点①の「概念における隣接性」についての不適切性を同時に論じている。
まず先行研究をあげて、「メトニミーが「同一概念領域内での転義」、メタファーが「異なる概念領域間での転義」」という概念領域の視点から見たメトニミーの定義について、以下の3つの問題点を挙げている。
1つ目は、同じ概念領域にあるからといって、つまり概念内で隣接しているからといって、要素間にいつもメトニミーが成立するわけではないことである。 メトニミーが成立するには識別者が2つの要素を関係付けて捉えるという動的なプロセスが必要であり、筆者はこれを根拠に、メトニミーの定義の「隣接性」は、「概念における隣接性」としても不適当としている。
2つ目は、「概念領域」による説明にも拘らず、実際には、以下の例(11)のように必ずしも「概念領域」の異同によってメトニミーとメタファーを区別できるわけではないことである。
3つ目は、メトニミーの転義に関与するのが「1つの概念領域」に限られず、複数の「概念領域」が関与しているものもあることである。
以上の点から、2つの要素が同一概念領域に存在するという静的な関係ではなく、2つの要素を関係付けて捉えるという動的なプロセスによってメトニミーの成立を説明する必要があるとしている。
(11)a 彼女はシンデレラだ。 「劇でシンデレラを演じる女の子」(メトニミー)
(11)b 彼女はシンデレラだ。 「シンデレラのように虐げられている女の子」(メタファー)
ここまでの主張を踏まえて、筆者はメトニミーと関連性を以下のようにまとめている。
メトニミー(metonymy)
外界の2つの事物間、あるいは2つの概念間に「関連性」が捉えられる場合、一方の事物・概念を表す形式を用いて、他方の事物・概念を表す認知能力。
関連性(relation)
2要素が、「特徴」と「主体」という関係として捉えられること。尚、「関係性」における「特徴」は、「主体」を他と識別できる「識別特徴」でなくてはならない。
サブゼミの研究でメタファーやメトニミーについての論文をたくさん読んできたが、この論文は「関連性」という独自の視点から新しい定義を求めている点が興味深かった。しかし、問題の指摘と筆者の主張が同じ章に混在し、代わる代わる出てくるので主張と指摘が把握しづらい印象だった。また、「外界における空間的隣接性」の4分類の説明が乏しく、分類の基準や定義が明記されていなかった。内容については、「関連性」によるメトニミーの定義の主張は「特徴」と「主体」という関係で説明しているが、「今日は手持ちがない」のような[手持ち→お金](全体→部分)のメトニミーにおいては「手持ち」が「お金」の特徴と言うことはできないので、「関連性」では説明できないのではないかという疑問が残った。
籾山洋介 2001 「多義語の複数の意味を統括するモデルと比喩」 『認知言語学論考』No.1 pp.29-58
佐藤信夫 1978 『レトリック感覚』講談社
瀬戸賢一 1997 「意味のレトリック」『文化と発想のレトリック』研究社
Lakoff
and Johnson 1980 Metaphors We Live By,Cicago:University of CicagoPress.
Ungerer
and Schmid 1996 An Introduction to Cognitive Linguistics,London and New
York:Longman.
Group
μ 1981 General Rhetoric,translated by Burrell,Paul B.and Edgar M Slotkin:The
Johns Hopkins University Press.