敬語の目的別分類

こんにちは。夜ゼミ二年の矢内です。

今スターバックスでこれを書いているのですが冷房が効きすぎて寒いです。店員さんに冷房の温度をあげてもらおうか迷っています。

今回私が紹介するのは、

浅田秀子(2005)「敬語の分類―表現と行為目的の見きわめ―」『日本語学』24巻9号p24‐34 (明治書院)です。 

1.目的別の分類

(1)階級遵守語:下位者が上位者に依頼・謝罪する際に用いる敬語。日本独自のもの。

(2)礼儀語:対等な人間関係において潤滑油としての役割を果たす敬語。海外に多い。

(3)自己品位語:上流階級の人が自分の階級を誇示するために用いる敬語。

 下層の人々がわざと汚い罵りをするのもこの一種=仲間内での連帯感を強める

2.現代敬語の用例

(4)A=20代女性 B=50代男性警察官

A:「ちょっとお願いしたいんですけど。」

B:「なに?どうした?」

【A→B】「お~する」(謙譲語)+「です」(丁寧語)、文末の省略

→Aの利益になる依頼・Bの利益にはならないため、丁重度の高い階級遵守語

【B→A】Aの発話の丁重度から内容を察知→階級遵守語に則った返答

※Bがやさしい口調で発話した場合

階級遵守語ではなく、親しみを込めて敬語を使用していない

→・Aがこれを不快に感じれば敬語を外さずに距離を保つ(相手をソト扱い)

 ・Aも敬語を外して会話をすると仲間内扱いとなるが、BはAの依頼を断りやすい

(5)A=60代TV司会者 B=20代出演者

A:「そんとき、あんたはどうしたん?」

B:「俺の嫁にならんか。言うた。」

【A→B】仲間内のように無敬語で質問

【B→A】敬愛の念を込めて無敬語で返答。自分の親のような年齢のAに甘えている。

→礼儀語を用いた会話よりも距離感が近く、本音を話しやすい雰囲気になる。

(6)A=30代女性 B=4歳の幼女

A:「アタチはだれと来たんでちゅか」

B:「うぇーん…」

【A→B】「アタチ」:本来自称詞の「わたし」の幼児語→Aが心理的にBと同調

              「来たんでちゅか」:Bの弟・妹の立場で階級遵守語を用いる

  →姉としての役割(泣かずにはっきりとした返答をすること)を期待

   ※「アタチ」が「お姉ちゃん」になった場合も同

3.自分の考え

階級遵守語が多く登場したが、(4)の会話でBが敬語を使わずに発話したのは自分の階級(職業)によるものなので、階級遵守語ではなく自己品位語なのではないか。

携帯メールに現れる方言

こんにちは!夜ゼミ2年の山本です。最近、爆食し過ぎて太りました。日本には美味しいものがあり過ぎる、、と思いながらも、この悩みなんて食べる物に困っている人もいる中で贅沢なものだったのだと気づかされ、今もお菓子を食べながら論文レビューを投稿しています。(汗)さて、今回は以下の論文についてのレポートです。

三宅和子(2006)「携帯メールに現れる方言―『親しさ志向』をキーワードに―」

『日本語学/明治書院[編]』第25巻p.18-31

この論文は、関東圏における若者の携帯メールで、方言が遊び感覚で使用されるようになっていることを通じ、携帯メールというコミュニケーションは、方言の使われ方にどのような影響を与えているのか、また、携帯メールに方言が気軽に使用されるようになったのは、どのようなことが起因しているのかを調査データを基に考察している。調査は以下の通りである。

①【自然データ調査】関東圏・T大学の三~四年生が実際に送受信したメッセージを収集したもの。(男女の友人間、述べ196名、913件分のメッセージ)

②【意識調査】関東圏・T大学の一~二年生に行った方言に関する意識調査。(有効回答者93名、男子45名、女子48名)

①【自然データ調査】

[1]共通語話者同士のメール会話

  男:仕事終わったー。さゆりも学校大変やな(*’ω’*) 

  女:をつかれ様ー(*’ω’*)私はこれから授業だべよー💦

 共通語話者同士のメールを見てみると、明らかに方言と分かる表現を使用している。また、方言とともに絵文字や顔文字などの多用から、話し言葉では不可能な、書き言葉としての表現や遊びを楽しんでいる。

[2]方言話者と共通語話者のメール会話

  男(方言話者) :なんか日曜の朝からとかごめんなぁ(^_^;)

大丈夫やった!?久々に何してるんかなぁ~って思ってさぁ(^^)

  女(共通語話者):ん~普通だよぉ~、学校行ったりバイトしたり

           カズは最近何してんの

 上記はあるメール会話の一部であるが、方言話者の男性に釣られるように共通語話者の女性もさかんに方言を使用している。このことから、話し手が自分の話し方のスタイルを相手のスタイルに近づけ、相手に受け入られようとしていると述べている。また、携帯メールではアクセントの欠落から、音声要素のズレや間違いを気にすることなく方言を気楽に使用できると述べている。

[3]地方出身者の携帯メールの方言使用

  次に筆者は、方言話者が関東の共通語圏に住み始めた時を例に考察している。これは携帯メールの普及に伴い、大学入学で関東圏に来ても地方の仲間と連絡が取れることから、現代では、環境の変化によるコミュニケーションの切れ目がほとんどなくなっているため、方言と共通語が常に並存している状況が作られていると述べている。

②【意識調査】

 調査の結果、メールに方言を用いたことがあると答えた回答者は93名中83名(89.2%)、そのうち61名(73.5%)は話す時にも用いると回答している。更に女子高生同士のメール会話は全く異なる地方の方言を組み合わせている例が多く見られ、これは暗号解読的なコミュニケーションであると推論している。と言うのは、仲間内で分かり合える言葉を使用することで、その中での連帯感を高めると同時に仲間以外の他者とは排他的な関係を持つ可能性を秘めているということだ。

以上のことから筆者は、対面会話のような時間を共有しない携帯メールでの方言使用は、アクセントを気にすることなく書き言葉として使用されるため方言使用がより一層広がっていると主張している。さらに、方言を使用することは親しい人をより親しく結びつけると同時に、親しくない相手を「親しい友人として扱う」ための雰囲気作りに貢献することが起因していると考察している。その一方で、方言を用いて仲間内の親しさを強化することが、それ以外の人に排他的に働くことも起因していると述べている。

この論文を読み、若者が方言を積極的に使用するようになった背景にはSNS上での「打ち言葉」が影響していることを知り、若者が方言を使用する際に意識することとして、自分の研究にも生かせるのではないかと思った。また、方言を使用する相手によって、その使用意図がそれぞれ異なることに着目している視点も良いと思った。方言の使用は、親しさを示す一種のコミュニケーションツールでもあり、方言を使用するうえで若年層と高年層での意識の違いを提示すると、若者が方言を使用する意図が更に深く読み取れるのではないかと思った。

「 重複後(畳語)している/した」について

こんにちは。昼ゼミ滝沢です。もう昼でも半袖ではいられず、思えば短い夏だった気がします。

以下の論文を要約しました。

大塚望(2021)「「重複後(畳語)している/した」について ―形容詞性接尾語辞「ぽい」「らしい」との比較―」、『日本語日本文学』31号、pp.11-29、創価大学日本語日本文学会

「子供子供する」は「子供っぽい様子」と説明され、「男らしい」は「男っぽい」と類議され、どれも似ているものと解釈されている。本論文では畳語の意味と用法を接尾語「ぽい」「らしい」と比較しながら明らかにしている。

「モノを表す名詞」

(1)a.たまごたまごしてるW玉子サンド

  b.たまごっぽいW玉子サンド。

  c.たまごらしいW玉子サンド。

(1a)に比べて(1bc)はその量の程度性が落ちていると指摘している。先行研究では「ぽい」は「期待値よりも多くの物質を含んでいる」「話者の暗黙の基準値よりも多く含む」とされている。(1b)ではたまごの絶対値が多いわけではなく、話者の基準値より多いことを示しているが(1a)では話者の基準を前提に持たず「絶対的に最大値であること」を示しているとしている。「らしい」は先行研究から「そのものの特徴や性格を十分に備えている様子」とあるように、量的な側面を述べることが出来ていない。

「色を表す名詞」

(2)a.ユナの部屋はピンクピンクしている。

   b.ユナの部屋はピンクっぽい。

   c. ユナの部屋はピンクらしい。 

(2a)ではピンク色の占有率が極めて高いことを意味している。しかし(2cb)のように「ぽい」「らしい」で言い換えることはできない。「ぽい」は先行研究からも「含有量の多さ」「性質が濃厚に抽出された状態」を表すが、(2b)の「ピンクっぽい」は「ピンクかかった」と別の意味が生じてしまい、多いと言っても最大値には至らないことを指摘している。一方(2a)の「ピンクピンクしている」はその物以上に強いこと、そのものが複数、多量に存在していることを示している。(2c)の「ピンクらしい」はこの文脈では使えない。

「属性を表す名詞」

(3)オネェオネェしてる方が好みだし面白いと思うけど…。

(3)では名詞から導き出される特徴や性質が極端に強くあらわれているという事を意味していると解釈している。属性を表す名詞の場合、「ぽい」に置き換えることが可能で、マイナスの意味がある場合は「らしい」に置き換えることはできないとしている。

接尾語が畳語と言い返している例は少ないため用法を見出すことは難しいと感じましたが、具体的な用例で分かりやすかった。一方で先行研究が数多く選出されていることで複雑な伏線が作られていて、最終的にまとめるのが困難でした。読解力を上げていきたいです。

働きかけの表現の地域差

こんにちは。夜ゼミ2年の矢内明莉です。

先日、コロナウィルスの影響で読売ランドに行く予定をキャンセルしました。とても楽しみにしていて、一緒に行くはずだった友人と一緒にダイエットを頑張っていたのですごく残念です…

さて、今回は

三井はるみ(2002)「働きかけの表現の地域差へのアプローチ―禁止表現を例として―」『日本語学』第21巻,9号,p36-47(明治書院)

について紹介します。

この論文では、「行く」の禁止表現に着目し、地域ごとにその表現にどのような違いがあるのかについて考察している。また、「行くなよ(やさしく)」と「行くなよ(きびしく)」に分類し、地域ごとに発話姿勢の違いが言語表現に表れているのかについても考察を行っている。

(1)行くな(よ)[やさしく]

・イキナサンナ類は敬語助動詞を用いた禁止文であり、イクナ類と比べて柔らかい表現→東日本との違い
・イカレナイ類は可能表現の否定形に由来。一般の否定形は「イケン」「イケレン」であり、別の形をとっている。

(2)(行くな)よ[やさしく]

・「デ・デヨ」「ゾ」「バイ」などは禁止文に接続しない


(3)行くな(よ)[きびしく]
・「きびしく」場面では、「イクナ」「イッテワイケナイ」に表現が集中

(4)(行くな)よ [きびしく]

・ [やさしく]場面で見られた「ヨ」「デ・デヨ」が[きびしく]場面では見られない
・「ッテバ」「ユータラ」は引用の類であり、「ズ」「チャ」も「と言う」が変化したもの
 
 筆者はさらに発話姿勢の違いがどのように言語表現に表れるかについても言及している。
 
(5)   発話姿勢の違いが言語表現に反映しない地点
・ 北海道、東北、中国、九州、沖縄
・ [やさしく][きびしく]のどちらでも終助詞のつかないイクナ類を用いる
・ [きびしく]場面では、「語形を変えずに語気を強くする」という回答あり
 
(6)   発話姿勢の違いが表現類型に反映する地点
・地域的な偏りなし
・(3)で挙げた場面の偏りを反映した表れ方をしている
・ [やさしく]:イッテワイケナイ類 [きびしく]:イクナ類 → 西日本
・[やさしく]:イクナ類 [きびしく]:イッテワイケナイ類 → 東日本
 
(7)   発話姿勢の違いが終助詞に反映する地点
・東北地方
・(4)で述べた場面への偏りを反映した表れ方
・ 終助詞なしの回答は[やさしく][きびしく]で見られる
 
 筆者は「行く」の働きかけ表現について考察しているが、発話姿勢まで深めて考察する場合は語用論的観点も必要ではないかと感じた。

〈実現〉を表す視覚動詞「みる」の構文化

 こんばんは。昼ゼミ2年の山下です。先日、自宅のプリンターが壊れ、コピーのたびにコンビニに行くようになりました。運動量が増えた気がします。

 今回は、高橋暦・堀江薫(2018)「〈実現〉を表す視覚動詞「みる」の構文化」『認知言語学論考』第14巻、pp.117-154(ひつじ書房)を要約しました。

 この論文では、「みる」が他の名詞と結びついて〈実現〉の意味を獲得する現象(1)について、主語名詞も含めた構文として捉え、その性質を明らかにしている。また、この構文化プロセスについて通時的観点から考察をし、他動詞かつ視覚動詞である「みる」が非有生の主語名詞を伴う要因を明らかにしている。

 (1)殊に[この交渉が], 国連の米ソ英仏代表の努力によって成功を見たことは, ……
                 (『現代語の助詞・助動詞-用例と実例-』, 村木1983:43 (19))

 筆者は、純粋な〈実現〉の意味を特徴づけているものは主語名詞の非有生性である場合があると指摘し、「〈実現〉の「みる」」に「[[主語名詞]+[目的語名詞]+[「みる」]]」という構文スキーマを想定して分析と考察をしている。

●分析:当該構文の性質
①〈出来事・状況における新たな局面への移行〉を表す目的語名詞と「みる」が共起する
②〈実現〉の意味が強く発現する場合、主語に非有生名詞が現れる
③報告文などの客観性の高い文体の中で用いられるという言語使用域の制約がみられる(村木(1983、1991))

●考察:構文化の過程
①構文の創発
・〈実現〉の「みる」の初出推定時期…明治後期から大正前後
(2)(3)に見られる構造の類似性と時代背景から、近代期における欧州諸言語(英語)との言語接触の影響を主張している。

(2)[今年の上半季は]昨年の上半季に比して収入に於て実に三万六千四百十七円九十六銭乃ち三割二分強の増加を見る。(『太陽』1895年8号, 高橋・堀江2012:100)※
(3)[The year 1861] saw an increase of 49 per cent. (The Times, Feb 20, 1863(同))
※(2)は要約者の都合により旧字体部分を新字体に変更しています

②構文の定着
欧文翻訳や近代前期に出現した欧文脈(欧文の表現構造を日本語の表現に直訳的に移入した文章脈)の隆盛に後押しされたと推測している。

 筆者は、構文化プロセス①②に想定される欧文の影響が、当該構文において他動詞かつ視覚動詞である「みる」が非有生の主語名詞を伴う要因であると主張している。また、上記の言語外的要因に加え、田中(1996)、高嶋(2008)の指摘する「みる」の多義性と意味拡張という言語内的要因が作用することで、構文として慣習化したとしている。

 この論文は、先行研究で指摘されていた言語内要因を支持した上で視点を変え、通時的な分析によって欧文の影響という言語外要因を指摘している点が興味深いです。最後に提示されている〈実現〉の視覚動詞「みる」の構文化プロセスに近いものが、他の感覚動詞やその他の動詞にも起こっているのか調べてみたいと思いました。

「大丈夫です」の用法拡大に関する研究-不利益を想定して気遣う言語行動-

こんにちは。昼ゼミ2年の芝﨑です。
昨日、鈴虫の音が聞でこえて、9月になったことをより実感しました。夜も涼しくて過ごしやすいので年中これくらいの気温であってほしいですね。

今回は、以下の論文を要約しました。

尾崎喜光(2016)「「大丈夫です」の用法拡大に関する研究-不利益を想定して気遣う言語行動-」『清心語文』第18号,pp52-64,ノートダルム清心女子大学日本語文学会

この論文は、対立する従来の表現の使用と対比しつつ「大丈夫」を社会言語学的観点から明らかにしている。

◎「大丈夫です」の従来の用例

⑴道を歩いていて転んだ人を見たとき
A「あっ、大丈夫ですか?」
B「あっ、大丈夫です」

◎「大丈夫です」の現代の用例

⑵食堂で店員さんから聞かれて断わるとき
A’「お茶のお代わりはいかがですか?」
B’「あっ、大丈夫です」

このように従来は、応答する場面において使われていたが、現在はこれに加え、他者からの勧めを断ったり辞退を述べたりする場面などでも使われるようになってきている。

〈調査方法〉
岡山市の20歳~79歳の男女に調査を行った。

〈結果〉
「だいじょうぶ?」
・男性よりも女性で使用者率が高い。
・60・70代では4.2%と非常に少ない。40・50代以下では約3割にまで上昇する。
「だいじょうぶです」
・男性よりも女性で使用率が高い。
・60・70代では 約1割と少なく、40・50代では約3割にまで上昇し、20・30代では約7割まで達する。
以上、現在(調査当時)岡山市で女性や若年層を中心に勢力を伸ばしてきている。

次に、岡山市以外での「だいじょうぶ」の使用状況について、先行研究を見ると、若年層になるほど数値の増加が見られ、岡山市と同じ傾向であった。しかし、男女差はほとんどない。

最後に、「だいじょうぶ」の本来の意味をふまえつつ、現在多様な言語場面において「だいじょうぶ」が使われる理由を検討する。主要な理由は、話し手が相手の不利益を想定し、その状態を気遣い解決しようという、従来なかった論理による対人配慮意識にもとづくのではないかと考えられる。応答での使用についても、自分は不利益を受けている状態だと認識した上で自分は特に問題がないと述べていると考えられる。つまり、自分の不利益や問題のある状態を想定した上で応答しているのである。
現代の若者は、友達といえども(あるいは友達だからこそ)気を遣う世代である。とりわけ迷惑をかけるということには敏感である。そのような対人意識の変化が、「だいじょうぶ」の用法の拡大と使用頻度の増加をもたらしているものと筆者は考えている。

この論文を読んで、調査方法によって回答が異なる先行研究について、どのように調査結果を分析し、比較したら良いのかを知ることができました。レポート作成で過去の調査を参考にする際は、活かしたいと思います。

程度副詞の評価性をめぐって

 こんばんは。夜ゼミ2年の米光です。市民プールでバイトをしているのですが、夏の期間は幼児用の外プールもあるので毎年肌がとても黒くなります。しかし、最後の方は天気の悪い日が続きよく雨が降ったため、あまり日焼けせずに済みました。みなさんは暑くて日に当たり続ける監視か寒い上びしょ濡れになる監視、どちらがまだいいですか?(笑)

さて、今回は以下の論文を要約しました。

田和真紀子(2011)「程度副詞の評価性をめぐって」『宇都宮大学教育学部紀要』61号、pp.25-36、宇都宮大学

 この論文は、先行研究から程度副詞の分類の流れを理解し、程度副詞の程度性と評価性との関係を整理している。さらに、程度副詞の評価的側面に再度注目し、評価的な性質が強い程度副詞の意味・機能の特徴を明らかにしている。

程度副詞の評価性と程度性

1983年の先行研究①

・陳述的な評価性

・ことがら的な程度限定性

先行研究①での程度副詞は、この2つの性格をもつものとして位置づけられている。

1990年の先行研究②

程度副詞の体系

先行研究②では、「評価系の程度副詞」は主観的な内面の価値尺度に基づく品定め―すなわち「評価」―を表すとしている。

2002年の先行研究③

程度量の副詞の機能分担

先行研究③の分類から、極端な領域は程度・量ともそれぞれ単一機能の「純粋程度の副詞」 と「量の副詞」が担当しているのに対し、「量程度の副詞」はその名の通り程度と量の両方で使用され、極端な領域以外を広くカバーしていることがわかる。

 本稿における程度副詞の分類

主張・根拠

・量系の構文において

「かなり類」「多少類」…量系の用法と程度系の用法の両方を持つ

◎(1)この夏休みは、宿題が かなり/多少 出ている。

◎(2)この夏休みは、宿題が かなり/多少 たくさん出ている。

「結構類」…程度系の用法が最も自然で、量系の用法が代理的=より評価性の強い程度副詞といえる。

△(3)この夏休みは、 結構 宿題が出ている。

◎(4)この夏休みは、宿題が 結構 たくさん出ている。

・比較系の構文において

新しい店のほうが古い店よりも もっと/かなり/多少 はやっている。

「新しい店」と「古い店」という比較対象のうち、どちらかが「はやっている」という判断を指摘するのに、自分の中の価値尺度と照らし合わせて主観的な評価を示す「結構類」はなじみにくい。対して、「かなり類」「多少類」は〈二つの対象の比較幅〉という対象寄りで客観的な「幅の量」を表していると捉えられる⇒比較系は量系に近い性質を持っていると思われる。

・「結構類」と「かなり類」

(5)速達を使ったら、 結構/かなり 早く荷物が届いた。

(6)皆元気で 結構だ 。<結構類>

(7)何の連絡もなく待ち合わせに来ないとは 随分だ 。<かなり類>

上記の例文から分かる共通点

・程度性においてはどちらも「相当程度の領域」に属す。

・述語化する。=評価副詞に近い性質を持つということ。

(8)この味、(私にとっては) 結構 好みだ。

(9)東京で地下鉄を使いこなすのって、(私にとっては) なかなか 難しいね。

(10)この味、 かなり 好みだ。

(11)東京で地下鉄を使いこなすのって、 随分 難しいね。

(12)今日は、 かなり 暑い。

(13)息子さん、 随分 大きくなりましたね。

上記の例文から分かる違い

・「結構類」…程度系の構文に限定され、より評価性の高い用法に偏っている。

・「かなり類」…比較系や量系の構文でも問題なく使用される。

・「結構類」…自分の価値尺度の中でことがらの位置に値するかを品定め―自分視点でことがらを評価する。

・「かなり類」…相対的・客観的なことがらの程度を表す文も、どちらでも使える。

筆者は、「この夏休みは、宿題が結構出ている。」や、「新しい店のほうが古い店より結構はやっている。」という文は不自然だと述べていたが、私は不自然だと思わなかった。しかし、この論文が書かれたのは10年前なので、不自然だと思わなくなった理由が「結構」の意味や機能が変化した結果なのであればとても面白いと思った。

日本語の揺れ

こんにちは。夜ゼミ2年の澤井です。先日、外国人の方に日本語で話しかけられて、私は英語で返答してしまいました。こういう時ってどっちの言語に合わせればいいんでしょうか。

さて、今回要約した論文は以下の通りです。

塩田 雄大(2020)「“9時10分前”は何時何分?~2020年「日本語の揺れに関する調査」から(1)~」『放送研究と調査』2020、12月、36―53

本論文では、日本語の揺れに関する調査をもとにその結果から意味や解釈の揺れを考察している。

調査したのは以下の通りだ。

1.「9時10分前」の指し示す時刻

2.「私情」の用法

3.「2日おきに」の解釈

4.和語の語形について

調査結果

1.「9時10分前」の指し示す時刻

〔解釈A〕「8時50分」 〔解釈B〕「9時10分の数分前」

→〔解釈A〕の意味が7割近くを占めた。その背景として、逆算的な認識・把握の仕方には針のあるアナログ時計の表示が影響していると考えている。

2.「私情」の用法

A「仕事に私情を差しはさんではいけない。」 

B「私情により、本日は出席することができません。」

AとBどちらが正しいと思うか尋ねる。

→Aは正しいが、Bはおかしいという回答が6割。しかし20代ではその回答は3割ほどであった。「私情」に関して、「私事」「個人的な事情」などに近いような新用法が受け入れられている。

3.「2日おきに」の解釈

「2日おきに来ます。」とした場合、次に来るのはいつだと思うか尋ねる。

→「2日おき」は「2日後」であると解釈する人が多い。しかし、「1日おき」も「2日後」と解釈する人が多かった。(「2日おき」が「3日後」になるという解釈は少ない)

4.和語の語形について

「言う」を「ゆう」と発音するか

→「ゆう」と発音して「いう」と書く割合が多い。実態調査と合わせて考えてみると「いう」という発音は調査結果が表すほどは使われていないと推察している。

自分の意見として、言葉の解釈や発音が年代によって変化していくというのは興味深い調査結果だったと思う。また、本来と違う意味で解釈している若者が多いというのは自分の調査でも参考にしていきたい。

「属性表現」をめぐって—ツンデレ表現と役割語との相違点を中心に—

こんばんは。昼ゼミの田久保です。

旬ということで梨を食べました。梨は千葉の特産で、私の通っていた高校の横は梨園でした。とても美味しいので、どうか千葉の梨をよろしくお願いします。

さて、今回は次の論文を要約しました。

西田隆政(2010)「「属性表現」をめぐって—ツンデレ表現と役割語との相違点を中心に—」『甲南女子大学研究紀要. 文学・文化編』第46巻 pp.1-11 甲南女子大学

要点

「ツンデレ」を表す、人物の部分的属性を表す言語表現を「属性語」とし、人物の全体を表す「役割語」との共通点と相違点を比較し、この2つが同一の基盤を持った区別できない連続のものであると主張している。この2つの中間的存在として「メイド」がメイド喫茶などで使用する言葉があるとしている。

「属性語」が持つ特徴

〈役割語と共通〉①特定の言語表現が特定の人物像を想起させる ②現実の言い方とは一致しない/現実にこの表現が受け入れられない

〈役割語と異なる〉③表現が示す人物像は部分的な属性である(性格など) ④現実世界に存在の裏付けがない

〈属性語にしかない〉⑤キャラクターに破綻が見られる(一貫性がない) ⑥その属性が社会的な地位や職業として認知されれば役割語になる可能性がある

「役割語」と「属性語」の連続性

役割語はその人物像全体が想像でき、属性語は部分的な人物像のみを想起させるという程度の違いはあるものの、役割語と属性語には上記の①②の特徴が共通するため、同じ基盤上にあるもので、はっきり区別できないと思われる。この2つの中間的存在が、現在段々とその職業が認知され始めている「メイド」が使用する表現である。この中間的存在が見られることからも、両者には連続性があり、「属性語」は「役割語」の一段階手前のものと思われる

〈自分の考え〉

メイドが使う表現を「役割語」と「属性語」の中間的存在だとしているが、そもそもこれが「属性語」であったのか疑問に思った。メイドがヴァーチャルな存在からリアルな職業への変わったというのは納得できるが、もともとアニメや漫画に登場していたときにもこの表現が表すのは「メイド」という職業であり、性格など部分的な人物像ではないのではないか。

こんばんは。昼ゼミ滝沢です。取りたい授業の曜日がかぶって悩んでます。

以下の論文を要約しました。

上林葵(2017)「関西方言における接尾語「ラ」」、『阪大社会言語研究ノート』、15号、pp.59-71

https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/67212/sln15-059.pdf

(1)ここは僕らにまかせて、君は早く帰りなさい。

(2)今日ラどこ行くの?

一般的な接尾語「ら」は(1)のようには複数性を示すが、関西方言における「ラ」は(2)のような複数性を示す用法とは異なる働きが存在する。本論文では関西方言における「ラ」の意味を複数性、例示、マイナス感情の3つとし、それぞれの用法を明らかにしている。

「複数性」

(3)この教科書{ラ/?たち}すててもいい?もうつかわんやろ。

本来接尾語「ら」は「たち」と言い換えが可能であるが(3)の関西方言における「ラ」は複数性を示しながら「たち」との言い換えが出来ない。「たち」が後接できるのは有生物なものまでに対し、「ラ」は無生物まで後接が可能であるとし、「たち」と「ラ」では接続できる語の範囲が異なることを明らかにしている。

「例示」

(4)今日どこで集まる?駅前ラどう?

(5){洗濯物を干そうとする相手に対して}今日ラ雨やで?中に干したら?

(4)ではいくつかの候補のうち「駅前」という候補を例示している。「ラ」を付けることでぼかしを含め、相手に選択の幅を与える「典型的例示」の働きがあるといている。(5)では「今日」のみを焦点にしており他の候補があることを含んでいないが、「『今日』が代表するような条件の担う日」をその他の選択肢として含ませおり、「合意的例示」の働きがあるとしている。

「マイナス感情」

(6)そんなゲームラしてる暇あったら宿題しなさい。

(7)こけて骨折して以来、自転車ラ怖くて乗らんわ。

(6)では話し手がその後に対して軽卑の感情を抱いている。接尾語「ら」も「たち」と比べて「上品でない言葉」とされ軽蔑感を持ち合わせているが、「ラ」は対比とは無関係に前接の語を卑下している。(7)では話し手にとって前接語に対して恐れや扱いづらさを示しており、前接語を見下す「軽卑」と異なるベクトルのマイナス感情を示している。

筆者の主観による用法の分け方がされていたが、方言の用法の分別は特に難しいものなのだなと思いました。自分の見の周りでも使い分けがされている方言接尾語をさがしていきたいです。